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執筆者の写真Yukihiro Nakamura

ブルーボトル

更新日:2020年9月16日


 「コーヒー界のApple」とか「第3のコーヒー」と言われるブルーボトルコーヒー。お店は近所にないが、通販で入手できるドリッパーとシングルオリジンを試す。


ブルーボトルコーヒーについて


 1683年ウイーンを包囲したトルコ軍が撃退され、逃げ去った後に残されたラクダの餌だと思われた豆が、珈琲豆だと気がついたコルシツキーが手に入れて、中央ヨーロッパで初のコーヒーハウス「The Blue Bottle」を開業。ウイーンにカフェ文化をもたらした。2002年カルフォルニア州オークランドでフリーランスの音楽家で珈琲マニアだったジェームス・フリーマンが、「焙煎したてのフレッシュな珈琲豆だけを販売し、フレーバーが最も美味しいピーク期間に、豆も最高品質で、最も美味しく責任をもって調達したものだけを提供する。」という誓約を立てた。ジェームスはコルシツキーに敬意を払い自分の店を「ブルーボトルコーヒー」と名付け、2015年日本に上陸した。

 

使用した機材

  1. ブルーボトルコーヒー ドリッパー:有田焼・久右エ門である。構造はカリタ のウエーブドリッパーに似ているが、ブルーボトルは1穴直線リブ、ウエーブは3穴リブなし。コーノやV60とは明らかに構造が異なっている。

  2. ブルーボトルコーヒー オリジナルペーパーフィルター:ドリッパーの形状に合わせウェーブ状になっている。フィルターは折る手間もなく、竹パルプを配合し湯通しの必要がない。

  3. ブルーボトルコーヒー 清澄マグ:多治見焼きである。ドリッパーと同じ白地にブルーボトルのシンボルマークが描かれている。340mlとたっぷり入るマグカップだ。どうもこうしたロゴの入った小物に弱い。


 ドリッパー には3つのこだわりがある。

  1. ドリッパーの凹凸である「リブ」が高く設計されていた方が、水が落ちるスピードが速くなり、その分美味しいコーヒーができるのではないかと考えていたが、実際に研究をしていくと、1滴の水滴よりも少しだけ低い高さでリブを作った方が、毛細管現象のおかげで流れが速いことが分かった。

  2. ドリッパーの厚みがあるほど温度を保つことができ、より美味しいコーヒーが抽出できるという仮説があったが間違っていた。ドリッパーの中の温度を適切に保つには、厚さを適度にそぎ落としたものの方が良いことが分かった。そこで、薄い形状を可能にする日本の有田焼のパートナーの技術によって、現在の薄さを実現した。

  3. どのような方法で抽出されると水がよく流れるか。当初は、リブがねじれていて、その中で水がぐるぐると回る方が美味しいコーヒーになるのではないかと思っていたが、こちらも研究の結果間違っていて、振動させずスムーズに流すほうが美味しく抽出できることが分かった。そこで、穴に向かって水がまっすぐ落ちる形状にし、穴も0.1ミリ単位で適切なサイズに調整することで、1本の糸のようにすーっとコーヒーが落ちるように設計した。この3つをそれぞれの角度で試しながら、1年かけてプロトタイプを完成させた。

説得力のある解説だと思う。


使用した豆

  1. タンザニア・キリマンジャロAA+VSP中煎り中挽き20g 

 まずはドリッパーによる味の違いを確かめるため、ブルーボトルの豆ではなく、スイッチでテイスティングしたキリマンジェロで確認する。

 

ブルーボトルドリッパーの淹れ方

  1. 中細挽きの粉23〜25g。

  2. 92℃のお湯350ml。

  3. お湯は、外側から内側に。均一に広がるように注ぎ入れる。

  4. 8〜12秒かけて回し入れる。これを4回繰り返す。

  5. ガスが出て、膨らんでくる。落ち着いたら再びお湯を注ぎいれる。

  6. 抽出完了の目安は2分30秒〜3分 

 

結果

  1. 一口ですっきりしながら、しっかりとしたコクを感じる。

  2. コーノとさほど違いを感じないが

  3. 豆が多めのせいか味が濃い。

 美味しい珈琲を安定して入れることができるドリッパーだと思う。使い勝手も良い。特にドリッパーから珈琲が一本の筋となって落ちる姿はとても美しい。ドリッパーもペーパーもブルーボトルが独自に開発したようだが、カリタのウエーブドリッパーに似ている点が気になる。だからどうというわけではないが・・・気になる。

 竹の繊維を10%使用しているドリップペーパーは、食べることもできるらしい。ペーパー臭が気にならず、湯通しが不要だとある。一般的に湯通しはペーパー臭を取るためだというが、以前ドリップペーパー数種で実験した時に、自分としてはペーパー臭に差を感じなかったため、今では湯通しをせずにドリップしている。

 微かに台形で裾広がりのマグカップ、薄手の飲み口は唇を当てると、マグカップのわりに繊細な口当たりがして、より珈琲の味に集中できる。持った時のバランスもよく心地いい。

 

考察


 金属コーノケメックスV60、ブルーボトルのドリッパーとスイッチを試して思うこと。コーノをずっと使っていたため気付かなかったが、実は蒸らした豆にドバッとお湯を注いで、ドリッパー とドリップペーパーに任せればいいのかもしれない。任せられるのが金属やV60、ブルーボトル、ケメックスのドリッパー だ。そして任せられないのがコーノである。リブが薄いからドバッとお湯を注ぐとペーパーがドリッパー に張り付いて、お湯の透過が遅くなる。そこでお湯がドリッパー に止まらないよう最新の注意でお湯を注ぐ必要がある。V60やブルーボトルはペーパーとドリッパー の隙間を確保しているため、ある程度お湯を注いでも抽出速度はさほど変わらない。もちろんお湯をコントロールすることもできる。その点ケメックスはリブがなくペーパーがドリッパー に張り付いてしまうが、ペーパーが厚めなので、もともとお湯をコントロールしようとしてもすぐに溜まってしまい、気を使う必要がない。金属ドリッパー はメッシュ部とガラス部に分かれていて、ガラス部との間隔がリブの役割を果たし、お湯の注ぎ方にかかわらず透過速度が一定している。ドバッとお湯を注ぐということは、短時間の浸漬法+透過法のように見える。つまり透過速度が遅いドリッパー はスイッチに近づき味のコントロールはできないが安定した味になる。金属やV60、ブルーボトル、ケメックスのドリッパーは丁寧な入れ方もドバッとお湯を注ぐ方法も取れるが、コーノはドバッと注がず、細心の注意でお湯を注いでこそ美味しコーヒーが淹れられる。コーノは扱いが難しい。味も微妙な差がある、金属、ブルーボトル、V60、コーノ、ケメックスの順にすっきりしてゆく気がする。諸説あると思うが、自分としては今のところこんな風に感じている。


補足


 そもそも珈琲抽出機の歴史の中でドリップ式の原型は18世紀フランスの「ドンマルタンのポット」に遡る。これはまさに浸漬と透過が混ざった形だった。ドリップは今や世界で最も普及している抽出法だが。珈琲本には「最初に少量のお湯で蒸らして」とか「お湯を細くして」「のの字を描くように注ぐ」などと書かれ、まるで作法のようだが、このようなお湯の注ぎ方へのこだわりは日本特有のものらしい。台湾、中国、韓国には日本のスタイルが伝わっているが、欧米では無頓着にドバッと一度に注ぐことも少なくないらしい。(講談社/旦部幸博著/コーヒーの科学 参照)

 

追記


 珈琲の3つのウェーブについて。

  1. ファーストウェーブ19世紀後半から、1960年代まで続く、大量生産・大量消費のコーヒーの時代。流通の発達により安価になったことで珈琲はポピュラーな飲み物になった。

  2. セカンドウェーブ1960年代、シアトル系珈琲チェーンなどの台頭により広がった、深煎り高品質の豆を使った珈琲の時代。カフェオレやアレンジ珈琲がポピュラーになり、ロゴ付きの紙コップを片手に颯爽と歩くのがクールだというファッションアイコンが登場した。

  3. サードウェーブ新しいビジネスとカルチャーがひとつになって確立している時代。珈琲生産地への配慮や価値などが注目されるようになり、珈琲がカップに運ばれるまでのトレーサビリティ、豆の素材や淹れ方など、各々の工程にこだわるスペシャルティ珈琲が注目され、世界中でハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルがトレンドになった。

 サードウェーブの旗手といわれるブルーボトルは日本の喫茶店から色々とインスパイアを受けている。また、珈琲界のAppleと言われるのは、創始者が自宅のガレージで始めたからだそうだ。実際ハイテクでもあるらしい。以下はそういったことに関する創始者ジェームス・フリーマンの言葉。

  • サードウェーブは農園ごとに豆を買い、コーヒー豆を浅く、繊細に煎ることが特徴。15年前はポートランドにもシアトルにもなかった。でも、例えばカフェ・バッハの田口護さんは、30年も前から豆の産地にこだわって、シングルオリジンのメニューを出してきた。彼は深くローストするので、そこは米国西海岸のコーヒーとは違う。また、カフェラテなどは出していなかったと思う。でも、サードウェーブ的なものの起源は、日本に長くあったものなんだと考えている。ペーパードリップなども日本発だ。ただ、僕らは日本の喫茶店の文化を受け継ぎつつも、プレゼンテーションの仕方が新しいので、そこに興味を持ってもらえているのかもしれない。

  • ブルーボトルコーヒーは焙煎してから48時間以内の珈琲のみを販売し、バリスタが客の前で1杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れる。見かけはアナログだが、アカイアスケールで時間と重さを測り、スマートフォンアプリと連動させ記録をしたり。TDSメーターで珈琲に含まれているエッセンスを毎朝バリスタが計測し、ターゲットレンジに入っているか数値と視覚で確認している。ロースターとPCが接続され、毎日のローストにおける温度データを収集。全世界のロースターとつながりデータを共有し、ローストした豆のテイスティング結果とローストデータをマッチングさせ「今日の珈琲が美味しかったのは、こうやってローストしたからだ」といったことを、焙煎士と品質管理チームが分析している。


 おうちカフェで使用している計測器。左から放射温度計、糖度計、光度計、PH計、TDS計、ドリップスケール。ドリップスケールはアカイアのようにスマートフォンと繋がらないが、重さと時間を図るにはちょうど良い。TDS(Total Dissolved Solid)は「総溶解固形分」のことで、水に溶け込んだ物質を濃度で表す。「濃度」と「収率」を測ることで珈琲の味わいを調整できるらしい。水に溶けている何かの量を測る方法は大雑把に2通りある。一つが、水に入った光が濃度によって曲がり方が違うことを応用した「屈折式」でBRIX、糖度計がこれである。溶けている糖の量を示すが、糖以外のものが溶けている場合も糖として換算される。もう一つは水に何かが混じっていると電気の通りが良くなることを応用した「電気式」でTDS計がこれである。いずれも溶けているものの量を測ることが目的の測定器だが、何が溶けているかはわからない。「収率」についてはまた後日。

 

次回


 ブルーボトルコーヒーの「お試しシングルオリジンセレクション」を次回から試す。

 煎りの表現がブライト/バランス/ホールドと見慣れない。ブルーボトルへ8段回焙煎で言うとどうなるか問い合わせた。

  1. ブライト:シナモンロースト、ミディアムロースト程度

  2. バランス:ミディアムロースト、ハイロースト程度

  3. ボールド:ハイロースト、シティロースト、フルシティロースト程度

 スペシャリティコーヒーの焙煎はコーヒー豆本来の風味を大切にするため、8段階の中から限定した度合いで表現するのが難しいとのことだった。

「スタバのコーヒーはマニュアルに沿って淡々と注ぐだけで、気持ちが入っていないと解釈したので、コーヒー自体はおいしいが嫌い」というジェームス・フリーマン。ブルーボトルはどんな珈琲を飲ませてくれるだろう。


(ネット上のジェームス・フリーマンの発言を参照させていただいた)

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2 Comments


Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
Sep 16, 2020

2019年

「コールドブリュー缶 ブライト/ボールド」の2 種類が発売された。

2020年

ブルーボトルコーヒージャパン(Blue Bottle Coffee Japan)が、ブルーボトルコーヒー専用キャッシュレス自動販売機「Blue Bottle Coffee Quick Stand」を、三井不動産リアルティが運営する「三井のリパーク」渋谷1丁目第9駐車場に、2020年8月7日(金)に設置します。1本236ml入りで640円。

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Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
Nov 07, 2019

2019年11月7日

 ブルーボトルコーヒーは文房具を出していた。ノートと万年筆とインクだ。

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