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執筆者の写真Yukihiro Nakamura

ルシアン珈琲

更新日:2020年8月25日


 アレンジ珈琲第1弾は「ルシアン珈琲」

 「ルシアン珈琲」はウクライナ生まれの珈琲だ。そんな遠い国で生まれた珈琲とも知らずに、まだ喫茶店初心者だった私はこの珈琲を頼んだ。子供にとって、喫茶店に入るのは勇気がいったし、いざ入っても何を頼めば良いかわからなかった。メニューに見つけた洒落た名前に惹かれたようだ。いざ飲んでみると、ホイップクリームがたっぷりのココア味の甘い珈琲は美味しかった。そのお店ではよく頼んだけれど、そもそも「ルシアン珈琲」を置いている店が少なかった。数十年が経つうちに喫茶店ではブラック珈琲を飲むようになり、さらに時が経ち喫茶店に入る機会も減って「ルシアン珈琲」を飲む機会もなくなった。そんなある日スターバックスの珈琲を飲んで「あれ?」なんだろうこの感じは「カフェモカ」なんて初めて飲むのになんだか懐かしいと感じたのだ。


 

レシピ

  1. 珈琲:カップ半分  キリマンジャロAA中煎り、中細挽きドリップ

  2. ココア:カップ半分  バンホーデン・ピュア・ココア+北海道十勝牛乳+砂糖

  3. ホイップクリーム:適量 雪印メグミルク・ホイップ+バニラエッセンス

  4. シナモンパウダー:適量 ガバン・シナモンパウダー

 カップに珈琲とココアを1対1で合わせ、ホイップクリームとシナモンをトッピングする。シナモンをかけるのは一般的ではないかもしれない。でも記憶にある「ルシアン珈琲」にはかかっていた気がするので、今回そうしている。


 熱い珈琲に冷たいホイップクリームが混ざって口の中で甘く溶ける。この感じは初めてルシアン珈琲を飲んだ時を思い出させるものがあった。シナモンの香りが鼻をくすぐり、幸せな気分になる。懐かしい味だ。甘い珈琲はブラックで飲む珈琲とは違う癒しがある。体が喜んでいる。でも珈琲本来の味はミルクや甘さに隠れてしまう。ココアが入っているから、この珈琲がキリマンかどうかはもうわからない。美味しければ豆がなんでも構わないだろう。甘く仕上がるから苦味の効いた豆が合うはずだ。ホイップがうまくできずシャバシャバになってしまったが、美味しかった。ここまでは古き時代に飲んだ「ルシアン珈琲」の再現である。さらに調べてゆくと「ルシアン珈琲」の生い立ちはあまり見つけられなかったけれど、興味深いことが分かった。


 

ルシアン珈琲あれこれ



 まず「ロシアン珈琲」である。ルシアンとロシアンは単なる聞き間違いで、同じものかもしれないと調べたところ「ロシアン珈琲」はロシア生まれの、ウォッカと卵黄を混ぜて飲むカクテル珈琲で「ルシアン珈琲」とは別物のようだ。かたや「ブラック・ルシアン」「ホワイト・ルシアン」と言う珈琲のお酒が見つかった。こちらはロシアンではなく確かにルシアンと名乗っている、ルシアンってどういう意味だろう。

  1. 「ブラック・ルシアン」は氷を入れたロックグラスにウォッカと珈琲リキュールを注いだもの。

  2. 「ホワイト・ルシアン」は「ブラック・ルシアン」に生クリームをフロートしたバリエーションである。

 ブラックルシアンが誕生したのは1950年頃ベルギーのブリュッセルで、ホテルのバーテンダーが食後に何か新しい飲み物が飲みたいと所望されて作ったそうで、カクテルの色が黒くウォッカに本場ロシア物を使ったことからこの名前がついたらしい。つまりルシアンとはロシアを指している。でも「ルシアン珈琲」も「ブラック・ルシアン」も「ホワイト・ルシアン」もロシア生まれではないのが面白い。名前が似ているけれど別物であった。


 さて書籍に「ルシアン珈琲」のことを「モカ・ジャバ」とも記載してあった。「モカ・ジャバ」は近頃聞く名前だ。調べてみると、この「モカ・ジャバ」はお店や人によってその定義がいろいろと異なるおかしな名前である。

  1. モカ豆ジャワ島産の豆(ジャバ)のブレンド珈琲:モカ豆ジャワ島の豆を混ぜ合わせて作ったブレンド珈琲のことを指す。

  2. ココア入りの珈琲:珈琲にココアを混ぜたものを、「モカ・ジャバ」として提供している店は非常に多く、スターバックスが普及し始めた影響で、「カフェモカ」という言い方が一般的になっている。

  3. チョコレートシロップの入った珈琲:珈琲にチョコレートシロップを混ぜ合わせた物を「モカ・ジャバ」として提供している店舗もある。ココアを作る際にチョコレートシロップを使う場合もあり、このパターンはミルクが入っていないので、よりチョコレートのコクが際立つ味わいの「モカ・ジャバ」になっている。

 1番は「モカ・ジャバ」の言葉どおりを意味している。2番3番は名前こそ違うけれどレシピは「ルシアン珈琲」に似ている。とはいうものの、レシピが似ていてもルシアン珈琲とモカ・ジャバを同列に認識する人は少ない気がする。ルシアン珈琲を出している喫茶店は今もあるだろうけれど「モカ・ジャバ」とは言わないだろうし、スターバックスで「ルシアン珈琲」を注文しても「カフェモカ」が出てくることはないはずだ。モカという名前が持ついくつかの意味合いがこうした現象を引き起こしていると思うのだが、まさか「ルシアン珈琲」のことを知らずに同様のレシピで作った珈琲のことを「モカ・ジャバ」と言ったとも思えない。

  • モカ」には珈琲にチョコレートを加えたものという意味があり、「カフェモカ」などもこのモカが語源になっている。チョコレートとココアで微妙にニュアンスの違いはあるものも、どちらもこのモカの意味で使われている。

  • モカ」は港の名前である。イエメンのモカ港から大量の珈琲がヨーロッパをはじめとした世界中に輸出され、イエメン産やエチオピア産の珈琲豆を「モカ」と呼ぶようになった。珈琲発祥の地であったことから、珈琲を「モカ」と言うようになった。

 さらに迷走しそうなのは「チョコレート珈琲」の存在かもしれない。チョコレートシロップやミルクを混ぜ合わせたもので、そのままネーミングされているのだが、これもまた「カフェモカ」とも呼ばれる。3番のパターンだが。「モカ・ジャバ」ではなく「カフェモカ」である。もともとチョコレートの原料であるカカオ豆に似た香りを持つモカ珈琲を使用したものを指していたが、現在はチョコレートを入れた珈琲を「カフェモカ」と呼ぶ。という説明があったが、なんだか怪しい、なぜなら別の人は「カフェモカは珈琲豆にモカを使用するという決まりが特にあるわけではないため、モカ珈琲とは関係がない」と言っている。かくして珈琲に関するウンチクは何が正しいかわからないことも多い。とはいうものの、「チョコレート珈琲」もまた「ルシアン珈琲」の仲間であるようだ。どの珈琲が最初に誕生したものか明確な資料が見つからないから断言できないが、同時多発的に誕生した珈琲なのかもしれない。


 「ルシアン珈琲」はドリップ珈琲だが、「モカ・ジャバ」に使用する珈琲はエスプレッソやドリップと店舗によって異なる。日本では「カフェモカ」と「モカ・ジャバ」はほぼ同じような意味で使われているようだが、あえて分類すると

  1. エスプレッソで作ったものが「カフェモカ」

  2. ドリップ珈琲で作ったものを「モカ・ジャバ」

 と分類できるようだ。こうして「ルシアン珈琲」を調べてゆくと、「モカ・ジャバ」「カフェモカ」に行き当たる。スターバックスの「カフェモカ」を飲んだ時に感じた懐かしさの理由はここにあったのだ。


 自家製「カフェモカ」ホイップクリームの上にチョコレートソースで絵を描く。エスプレッソ を使ってもココアと甘味のおかげで味はルシアン珈琲に似ている。


 

整理


ルシアン珈琲と名前が似ている飲み物

  1. ルシアン珈琲:珈琲とココアを1対1で合わせ、ホイップクリームをトッピング

  2. ロシアン珈琲:ウォッカと卵黄を混ぜて飲むカクテル珈琲

  3. ブラック・ルシアン:ロックグラスにウォッカと珈琲リキュール

  4. ホワイト・ルシアン:「ブラック・ルシアン」に生クリームをフロート


ルシアン珈琲の同類とみなせそうな珈琲

  1. ルシアン珈琲:珈琲とココアを1対1で合わせ、ホイップクリームをトッピング

  2. モカ・ジャバ:ドリップ珈琲で作ったココア入りの珈琲

  3. モカ・ジャバ:ドリップ珈琲で作ったチョコレートシロップの入った珈琲

  4. カフェモカ:エスプレッソで作ったチョコレートやココアを加えたもの

  5. チョコレート珈琲:チョコレートシロップやミルクを混ぜ合わせた珈琲


ルシアン珈琲と同じ名前で全く違う珈琲

  1. モカ・ジャバ:モカ豆とジャワ島産の豆のブレンド珈琲


 時代が新しくなり、珈琲の名前も新しくなる。でも大元は昔からあった珈琲で、アレンジを少し変えたり、名前を変えただけのものもあるのだろう。「ルシアン珈琲」が時代が変わって「モカ・ジャバ」になったのかどうかはわからない。偶然同じようなレシピだっただけかもしれない。名前が違うと味も違いそうなものだが、珈琲のアレンジはたくさんあるけれど結構似ているかもしれない。

 

追記


 珈琲の味を確かめるためにブラックで飲むことが多い。母にはカフェ・オ・レで甘い珈琲を作ってきたが、今回ようやく自分でも甘い珈琲を飲んだ。お店では当たり前に飲む甘い珈琲だが、我が家で淹れると不思議な気分。やっぱり簡単ではない。ルシアン珈琲を作ってみて、美味しくて見た目も好ましい珈琲を淹れることがとても難しいとわかった。珈琲を淹れ、ココアを作り、クリームをホイップして、冷めないうちに一つのカップに注ぐ。慣れればそうでもないだろうけれど、初めてのルシアン珈琲は難しかった。


 出来上がった珈琲を美味しく撮影するコツはなんだろう。背景が入るとうるさいし、上からだと味気ない。ほんのり立ち上る湯気が入るといいのだが、湯気を写真に撮るのはどうしたらいいのだろう。


 「音楽家達が盗用で訴えられないよう、作曲されていない全メロディーをアルゴリズムで作曲し、それらを公開してパブリックドメインにした。」と言うニュースを見た。すごいことだと感心する。レシピは基本的に「著作権の保護の対象にはならない」らしく、自由に利用できありがたいことだが、創作料理も法的に守れないという。「うーん?」権利を守り争う世界より、パブリックドメインにして共有できる方が個人的には住みたい世界かな。



閲覧数:1,821回5件のコメント

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5 comentarios


origanmeister
origanmeister
03 mar 2020

その卵黄とココアのrussian coffee、どんな味なのか想像がつきません。美味しいのかな?いちど味わってみたいです。

そういえばロシア(正確に言えばソ連邦)に2週間いましたが、珈琲の思い出がありません。もっぱらジャム入りの紅茶を楽しみ、サモワールを買って帰ろうとして、同行の友人に窘められました。

僕のイメージではウクライナはハンガリーとかポーランドと同じ東欧で、無理矢理、ロシア(ソ連)に入らされた。ぼくが行った当時のレニングラードは完全に西洋でした。モスクワはアジアでした。ロシアというのは西欧からみたらアジア的、アジアから見たら西欧というイメージはたしかにありますね。明治時代になってロシア文学が日本に受け入れられたのはそのアジア的な風土に通じるものがあったのかもしれません。旅の最中、いたるところで日本的な林の風景を見ました。


レストランで友人がウオッカやビール、下戸の僕が水を頼んだとき、たしか同じ値段でした。美人の女性がいつも高圧的な態度で接客していて、ビクビクしながら注文していたことなど思いだしました。

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Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
03 mar 2020

ルシアン珈琲はウクライナ生まれ、ロシアン珈琲はロシア生まれ、でもルシアン珈琲とロシアン珈琲は同じようなものみたいだけどどう言うことだろう。気にかかるので、ウクライナの歴史を調べると「9世紀から現れたキエフ公国はキエフを首都とし,11~12世紀に栄えたが,13世紀タタール人の侵入により滅亡し,16世紀ウクライナはポーランド領となった。17世紀に入り勢力を増したウクライナ・コサックは分離運動を起こし,やがてロシアの援助を得,1654年にはロシアと合併した。1917年独立し共和国成立,1922年ウクライナ=ソビエト社会主義共和国としてソビエト連邦に加盟したが,1991年独立を宣言。今日の国名に改めた。」とある。ウクライナとロシアの関係性が深いことを認識しました。欧米から見たアジア的な、日本からみたロシアという括りなのかなと推察します。


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Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
03 mar 2020

他の資料に ロシアン・珈琲(russian coffee)はホット・モカ・ジャバとも呼ばれ、深煎りの珈琲と、湯煎にかけて溶かした板チョコまたは濃いめのココアと卵黄、少量のミルクを火にかけながら、よく混ぜ、砂糖を小匙に一杯入れたカップにこれを注ぎ入れ、よく混ぜたら、ホイップクリーム大匙1杯を浮かべる。仕上げに板チョコを削って振りかける。と言うレシピがありました。これはルシアンではなくロシアンと書かれておりウオッカは入れていませんが卵黄が入っています。どうもルシアン珈琲とロシアン珈琲は別物ではなさそうですね。origanmeisterさんが仰るとおり「ウオッカがはいっているかどうか」と言うことなのかな。たった一杯の珈琲にこんなに悩まされるなんて、なんて面白いのでしょう。

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Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
02 mar 2020

シベリア鉄道という名前を聞くだけでも色々なことを思い巡らします。現地で味わってこられている経験に勝るものはありません。ジャム入りの紅茶をロシアンティーというそうですね。砂糖が貴重だった時代に、砂糖の代わりに完熟果実から作ったジャムを舐めながら濃い目の紅茶を飲んだのが、ロシアンティーのはじまりだとか。余談ですが私も飛行機でウォーターを頼んだらウォッカが出てきたのを思い出します。

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origanmeister
origanmeister
02 mar 2020

ルシアン珈琲は、要はウオッカがはいっているかどうかで、実際にロシア飲まれている珈琲ではないのですね。30代の前半の真冬、シベリア鉄道でモスクワに行ったことがあります。車内で tea or coffee ?と聞きに来ますが、coffeeと注文しても来るのはカップの半分ほどはジャムが入っているteaばかりでした。僕の発音が悪かったんでしょうね。モスクワでも珈琲が美味しかったという印象はありません。ルシアン珈琲、もしかして、と思ったんです。ルシアンルーレットもロシアとは関係ないのと同じですかね。 

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