1.9lの魔法びんと岡崎見聞録(1979/11/10)
家のそばに素敵な喫茶店を見つけた。オールドの空き瓶にいろいろな色で絵が描かれて置いてある。キリンビールの空き瓶が、首のところを熱して引き延ばしたのか奇妙な形をしている。古い木製のラジオや、黒塗りの扇風機があちらこちらに置かれている。古びた時計がいくつも時を刻むことをやめ、意味不明の絵や、ドライフラワーがいたるところにぶら下がっている。店のど真ん中には、ソテツの木らしい植木がでんと置いてある。壁にはここでしか見られないような広告がたくさん貼ってある。
例えば
「字根石村スケジュール、字根石村がお届けする秋の風、坂本長利の一人芝居「土佐源氏」「フエニシ」上映会・・・そして地元岡崎の劇団 白髪小僧公演「街は口紅(シティ・ルージュ)」11月は名古屋公演です。今回は12月の北風に乗って京都までひとっ飛び、久々の野外公演です。・・・」
こんな感じ。土地のものには嬉しい。もっと岡崎に密着した生活がしたくなった。
窓の外を覗くと、その景色は、遠い昔のような気がする時がある。タバコをくゆらし、ルシアン珈琲を飲み、西陽が窓から射す頃に昆布茶を飲んで店を出る。西尾街道を南へ5分ほど歩くと神社がある。ここらは竹藪や神社が多くある。大きな古い家ばかりだ。大勢の子供たちが遊んでいる割に落書きは見当たらない。お賽銭をあげて、柏手を打って、ふと見上げると、唐じしと象がいた。
畑の中に1本の道がある。家のすぐそばを通るバス専用道だ。バス停の裏は田んぼで、その向こうに森に囲まれて神社とお寺が並んでいる。このバス停、板もはがれ、ペンキもハゲ、トタンも錆びているけれど、夕日を浴びると黄金色に輝いた。
お店にあった雑記帳に絵や文章を書くうちに、なんとなく自分の一つの絵というものを感じるようになっていった。
「1.9lの魔法びん」のショートムービー
1.9lの魔法びんはもうないが、ここをイメージしながら描いた小説のアイデアがある。
Comments