2021年3月15日発行、コーヒーハンターJose’e川島良彰氏、池本幸生氏(東京大学教授)、山下加夏氏(サステイナビリティ・アドバイザー)共著を読む。
周期的にコーヒーの不作を引き起こす要因は干ばつや霜害だが、1997年に原因不明の価格の高騰が起こった。有力な説は、投機資金が流入してコーヒー価格を暴騰させたというものだ。1997年はアジア通貨危機が起こった年で、高めに設定されていたタイのバーツに目をつけた欧米のヘッジファンドが大量の空売りを仕掛けたため、バーツは大幅な切り下げに追い込まれ、ヘッジファンドは巨額の利益を手にした。この時コーヒー市場の価格も操作され、高騰したことでコーヒー生産者も利益を得ることができた。これ自体はコーヒー生産者にとって望ましいことだったが、作為的な価格の高騰は、新規にコーヒー栽培を始めた多くの開発途上国にとって、2000年に国際価格が元の水準に下がっても、供給過多の状況が続き大きな損害を被る事態となった。「コーヒー危機」である。
川島良彰・池本幸生・山下加夏共著「コーヒーで読み解くSDGs」より
SDGsを、コーヒーの生産現場や、現地の人々と川島さんらの関わりを通して解説している。実際にMiCafetoで味わったドイ・トウンやサン・ミゲル、ブルーハ・ゲイシャがどのように誕生したのか。初めて川島さんを知ることになったNHKのザ・ヒューマン「コーヒーで世界を変える 川島良彰」で紹介されたキューバでの活動や、番組の最後に「川島氏は次に、農業指導のためにルワンダに向かう。」と語られたルワンダで何をしたのか、そうしたことが一つに繋がった。
「珈琲時間」は「消費者が美味しさに敏感になることが、ひいては生産者と消費者との不公平な関係の解消にも繋がる・・・」と本書を紹介している。
後書きの山下加夏氏の言葉にぐうの音も出ない。
「サスティナブルコーヒーとは、「今の世代が楽しんでいるのと少なくとも同じくらい美味しいコーヒーを、将来の世代も楽しむことができるようにするために努力しているコーヒー」ということ。コーヒー産業が直面している課題は、環境・経済・社会などの面で多岐に渡り、多様なこれらの課題のどれかに取り組んでいる。日本ではコーヒーの美味しさについて蘊蓄を傾ける人たちはたくさんいるが、生産国での環境やそこで働く人たちの生活のことが全く抜け落ちていることが多いように思う。2000年代の初めに起こった「コーヒー危機」のことさえ知らない人もいる。これらの問題を知らずに、本当に美味しいコーヒーについて語ることはできるだろうか。「他人の不幸の上に自分の幸福は築けない」という言葉がある。私たちは私たちが「美味しい」と言って飲んでいる珈琲が、珈琲の生産者の貧困や環境破壊という大きな犠牲の上に成り立っているかもしれないと知った時、それでも「美味しい」と満足していられるだろうか。」
川島良彰・池本幸生・山下加夏共著「コーヒーで読み解くSDGs」より
「私たちは私たちが「美味しい」と言って飲んでいる珈琲が、珈琲の生産者の貧困や環境破壊という大きな犠牲の上に成り立っているかもしれないと知った時、それでも「美味しい」と満足していられるだろうか」 人類がいま謳歌している文明や文化がじつはこうした構造の上に築くあげられてきたということを考えると、とんでもない間違いを犯しているのではないか、それがもっとも先端的に象徴しているのがコーヒー文化だと思わざるを得ません。