映画の素敵なシーンには珈琲が登場する。思い出に残るシーンを振り返る。
バグダッドカフェ(1987)
車旅の途中で夫婦喧嘩となり砂漠の真ん中で降ろされてしまったドイツ人女性のジャスミン。幸いモーテルにたどり着きしばらく滞在することにする。モーテルには、ガミガミ怒鳴る奥さんのブレンダと、頼りなさそうな旦那のサル、ピアノが弾きたい息子、ちょっと足りなさそうな娘、バーテン、モーテルに泊まっている客が数人。バグダッドカフェというそのモーテルはかさかさに乾いて寂れた最果ての地のようなところだった。壊れた珈琲マシンをなんとかしてと怒鳴るブレンダ。ジャスミンと一緒に砂漠に捨てられた古ぼけたポットを拾ってくるサル。仕方なくブレンダが出かけると、留守の間にジャスミンが掃除を始めた。突然のことに、興味津々で面白がる客たち。帰ってきたブレンダは火がついたように怒鳴り散らしたけれど。綺麗になったオフィスに座るとまんざらでもなさそうだった。
1987年のこの映画は、当時流行り始めたロードムービー、特別な事件が起こるわけでもなく、淡々と日常が過ぎてゆく中で、錆び付いた人たちの心が通じ合ってゆく。素敵な音楽が聴きたくて何度も見た映画。
Desert road from Vegas to nowhere
Some place better than where you've been
A coffee machine that needs some fixing
In a little cafe' just around the bend
I am calling you,
Can't you hear me
I am calling you
かもめ食堂(2005)
小林聡美が、おいしい珈琲を淹れるためのおまじないといって、コーヒー豆に指を突き刺してモニャモニャとなにやら唱える印象的なシーンがある。初めてこの映画を見た時、なんと言っているのかわからず、本当におまじないの言葉だと思っていた。今なら「コピ・ルアク」と言っているのがわかる。
しあわせのパン(2012)
カフェ・マーニーのりえさんが淹れる珈琲と、水縞くんの焼くパン。珈琲がもたらす幸せな時間について教えてくれる素敵な映画。りえさんはネルドリップ、ペーパードリップ、イブリック、ウォータードリップを使いこなしていた。でもこの映画に出会ったのは、奥さんと別れることが決まった時だった。しばらく珈琲の味もわからなくなった。
さいはてにて やさしい香りと待ちながら(2014)
父の失踪が伝えられ、残されたのは海辺の船小屋と借金だった。娘にとって懐かしい思い出の船小屋はボロボロに朽ちていた。道路向かいに民宿があるのだがもうやっていない。仕方なくボロボロの船小屋に野宿する女性。翌日からゴミを片付け、壊れた壁を直してゆく。流しが持ち込まれ、電気が通り海辺に張り出したテラスに街灯が灯る。数日後大きなロースターが入った。煙突があって、ロースターが豆を煎るジャラジャラという音がする。いつの間にかしゃれた焙煎珈琲屋になった。ああやっぱり珈琲は焙煎だって思う。民宿には母と子2人が住んでいてちょっと荒んでいる。ある出来事で打ち解けあい珈琲を淹れる。一口飲んで「これ本当に珈琲?」と問いかける。それ以上は語らないけれど、「こんな美味しい珈琲は初めて」「今まで飲んでた珈琲はなんだったんだろう」そんな気持ちが伝わってくる。人生はそりゃあ色々あるけれど、そうしたことを全て包んで、珈琲のある風景が優しい。
ますます焙煎を自分でやってみたくなる。
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