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ブランデー

執筆者の写真: Yukihiro Nakamura
Yukihiro Nakamura
10 時間前
読了時間: 3分

2026/9/12



 子供のころ、我が家はお酒にまったく縁のない暮らしをしていた。けれど、母は本当はお酒が好きなのかもしれない。ラムを飲み、モヒートというものを知ってから、急にお酒の楽しみを覚えたようだった。


「お父さんは晩年、ウイスキーの水割りを旨そうに飲んでいたっけねぇ」


 そんなことを思い出した母が、ぽつりと「ブランデーというのを一度飲んでみたい」と言った。考えてみれば、僕もブランデーというものをちゃんと味わったことがない。そこでさっそく「レミーマルタン」というのを取り寄せ、敬老の日にでも開けようということになった。


 折しも、金曜ロードショーで映画の『タイタニック』をやっていた。沈みゆく大きな船のうえで、死を覚悟した紳士が「ブランデーをくれたまえ」と言っている。それを見ていたら、無性にブランデーが飲みたくなってしまった。


 僕はさっそくレミーマルタンの瓶を出し、グラスに注いで母に差し出した。なかなかいい香りがする。母はグラスをくるくると回し、そっとひとくち口に含んだのだが、すぐに「あら」と言って目を丸くした。アルコール度数は四十度である。お酒の初心者には、いささか強すぎたらしい。


モヒートみたいにしてみたらどうだろう」


 僕は氷と炭酸水、それにガムシロップを持ってきてグラスに注いでみた。すると、これがめっぽう美味しくなって、喉ごしもよくなった。


 あとで調べてみると、ブランデーというのは室温のままグラスに注ぎ、手のひらで底を包み込むようにして温めながら、香りと一緒に味わうものなのだそうだ。ただし、これは昔のブランデーの香りが弱かった時代の名残で、今のブランデーはわざわざ温める必要もないらしい。「オンザロックなど冷やして飲むのは、味がわからないやつのすることだ」なんて野暮を言う人もいるそうだ。ましてソーダ割りにするなんてのは論外ということになるのだろうが、英国ではその昔、ブランデーのソーダ割りが王侯貴族や知識人の嗜みとして好まれたという話もある。美味しく飲めるのなら、どんな飲み方をしたって構わないじゃないか、と僕は思う。


 ところで、ブランデーとひとくちに言っても、いろいろな種類があるようだ。せっかくなので、少し調べてノートに書き留めておくことにした。


【熟成年数による違い】

  • 一つ星:三年から四年熟成させたもの

  • 二つ星:五年から六年熟成させたもの

  • 三つ星:七年から十年熟成させたもの

  • VO(ベリーオールド):十一年から十五年

  • VSO(ベリースペリアオールド):十六年から二十年

  • VSOP(ベリースペリアオールドペール):二十年から三十年


【産地や製法による種類】

  • コニャック:フランスのコニャック地方のもの

  • アルマニャック:フランスのアルマニャック地方のもの

  • ピスコ:南米のブランデー シンガニ:ボリビアのもの

  • マール:ワインに使ったぶどうの搾りかすから造る(フランス)

  • グラッパ:おなじくぶどうの搾りかすから(イタリア)。樽熟成をしないことが多い

  • オルーホ:スペイン産。樽熟成するものもある

  • フィーヌ:基準を満たさなかったワインを蒸留して造るブランデー


【ぶどう以外の果実から造るもの】

  • カルヴァドス:リンゴが原料

  • キルシュヴァッサー:サクランボが原料。お菓子の風味付けによく使われる

  • スリヴォヴィッツ:プラムが原料

  • フランボワーズ:キイチゴが原料

  • オープストラー:リンゴと西洋ナシをあわせたもの

  • ハニーシュナップス:蜂蜜が原料(リトアニア独特のもの)


 こうして並べてみると、まるで世界中の果実がお酒に化けて勢ぞろいしたみたいで、なかなか壮観である。今夜はソーダ割りで一杯やることにして、次はどれを試してみようかと、母と二人でグラスを傾けている。

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