2023/8/11
堀口俊英著「新しい珈琲の基礎知識 知りたいことが初歩から学べるハンドブック」
コーヒーを淹れる抽出器の話から、流通、スペシャリティとコモディティ、成分、官能評価、精製、生産国、品種、焙煎、珈琲の評価方法と多角的な視点で珈琲を捉え具体的な数値で分かりやすく説明している。また昔の情報と最新情報を交えてどのように変化してきたかも示してくれているため、思い込みからなんだか変だなと感じていたことも、はっきりさせてくれた。
著者について
堀口俊英
環境共生学博士
堀口珈琲研究所代表
(株)堀口珈琲代表取締役会長
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)理事
日本コーヒー文化学会常任理事
堀口珈琲研究所のセミナーにて、過去20年「初級抽出」「テイスティング初級」「テイスティング中級」「開業」などさまざまなコーヒーセミナーを開催。
本書のつまみ食い
P230より
「コーヒーの香味を5感で受け止めたときに、それをその豆の風味が潜在的な記憶の中にとどまる可能性もあれば、忘れてしまう可能性もあります。ある風味を思い起こすには言葉が必要で、言語化し、記憶の引き出しに入れておくことが重要になります。そしてその言葉は他人と共有できるような具体的かつ客観的な必要もあります。中略 コーヒーの場合はSCAの作成したフレーバーホイールが主に使用されています。しかし、米国で作成されたSCAのフレーバーホイールは、よくできたものですが、風味は食文化に影響されるので、国や人種により感覚は微妙に異なります。参考にするのは良いのですが複雑で、プロでも経験が必要で、消化するのは難しいと感じます。中略 適切な風味表現には、独りよがりではなく、多くの人と共通認識できるものが良く、語彙集の研究が急がれます。あまり言葉を増やさないで、初めは「心地よい香り、花のような香り、香りが強い、酸味が強い、爽やかな酸味、華やかな印象、甘さがある、甘い余韻が残る、濁りを感じる」など簡単な2つか3つのワードぐらいで表現するのが良いでしょう。」
珈琲の味の表現について常々感じていた疑問がスッキリした気がする。言葉で風味を表現するということがどういうことかをわかりやすく説明して、文化の違うアメリカ生まれのSCAのカッピング官能評価がしっくりしなかった理由も納得する。
P234より
「口内の触覚器官への刺激で感知される流動性をいいます。複数の成分の総和により起きる口中の濃縮感をテクスチャーとします。口内で知覚できる物理的特性で、ボディと同義語とします。生豆に含まれる12〜18%/100g程度の脂質は、コク(ボディ)に大きな影響を与えると考えられます。」
一口でコクと言っていたものが何であるのか、今まではっきりしなかったが、それもちょっとわかる気がする。
P238より
「SCA方式の基本的考え方を踏襲しつつ、SCAプロトコルに準じ行います。比較的簡単に行えるように官能評価表を香り(Aroma)、酸味(Acidity)、こく(Body)、きれいさ(Clean)、甘味(Sweetness)の5項目に簡略化し50点満点としています。ナチュラルの評価については、甘みの代わりに発酵集(Fermentation)としました。AcidityはpH(酸の強さ)と滴定酸度(総酸量)、Cleanは酸価(脂質の劣化)を評価基準の目安としました。Fermentationは発酵臭の有無を見ます。Aromaは香りの強弱と質、Acidityは酸の強弱と質、Bodyはコクの強弱と質、Cleanは液体の綺麗さ、Sweetnessは甘みの強さ」
SCAの評価方法を何とか取り入れようとして試行錯誤したが、結局、体感的にどうしてもしっくりこないために放棄してしまっていた。本書ではそうした疑問点を堀口珈琲研究所の新しい官能評価方法として提示している。曖昧だったところがかなりはっきりとした感がある。参考にしてみたいと思っている。
P162より
「現在は、世界的に果実の風味のある豆がより求められるようになり、穏やかなブルーマウンテンの風味と高級品というイメージのみでは高価格を維持できなくなり、昔からブルーマウンテンを多く輸入していた日本の輸入量は低下傾向にあります。」
ブルーマウンテンは素晴らしい珈琲だという思い込みと、実際に飲んだ時に抱いていたモヤモヤした気持ちが何であったかをはっきりさせてくれた。ブルマンはある意味でクセのない珈琲なのであった。だからゲイシャやパカマラ、SLなどのフルーティーで華やかな珈琲を知ってしまうと、ブルマンが霞んでしまったのだ。このことについては別途考察してみたい。
追記
ただ、ダッチコーヒーの起源に関する記述が気になり、筆者に疑問を持ってしまった。
P38より
「水出しコーヒーは、かつてオランダ領であったインドネシアで行われていたため「ダッチコーヒー」とも呼ばれています。以下略」
これについて旦部幸博著「コーヒーの科学」で「 「ダッチコーヒー」という名前ですが、オランダ人に訊いても「見たことがない」と答えます。それもそのはず、実はこのダッチコーヒーは京都生まれの抽出法です。名前にある「ダッチ」はオランダ領東インドに由来し、戦前のインドネシアの飲み方がヒントになっています。昭和30年頃、京都のサイフォンコーヒーの老舗「はなふさ」のマスターが、あるコーヒー通が本に書いたインドネシアの淹れ方に興味を惹かれ、たった数行の記述を元に「幻のコーヒー」の再現に取り組みました。そして京都大の化学専攻の学生に協力を仰いで、医療機器の専門店で製作したのが、この「ウォータードリップ」と言われる抽出器具だそうです。中略 2012年にメリー・ホワイト「Coffee Life in Japan」で紹介されて以降、アメリカでもウォータドリップを使う店が現れています。ただし面白いことに、その誕生の経緯を知ってか知らずか、彼らはこれを「キョート・コーヒー」と呼んでいます。」
いずれが正しいか正直わからない。ただ堀口俊英著「新しい珈琲の基礎知識」が少しでも旦部幸博著「コーヒーの科学」にあることに触れていれば嬉しかった。ダッチコーヒーの記述が本書のかなり最初のところで出てくるため躓いてしまったが、その後の記述が具体的で、数値を用いて極力客観性を持たせようとしているところに好感が持て、最後まで読ませてくれた。
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