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美しさのかたち

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 4月5日
  • 読了時間: 3分

2025/4/5


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 ふと、風が頬をなでていったとき。

あ、いま、美しいってこういうことかもしれないな、と思うことがある。


 ぬるい川の水が足元を包む感じとか、

ひなたぼっこのぬくもりとか、犬の毛並みのやわらかさとか。

そういうものに触れると、自分の輪郭が少しゆるんで、

なんだか「ここにいていい」と言われているような気がする。

それは、美しさの一つのかたちだと思う。


 香りにも、美しさがある。

たとえばコーヒーを淹れたときの匂い。

木の香り、夕立のあとに広がる土のにおい。

それらがふいに、どこか懐かしい記憶を呼び起こして、

一瞬で時間がつながってしまうときがある。

その「つながる感じ」が、私は好きだ。

何か大切なものが、過去から手を振ってくれているみたいで。


 そして沈黙。

何も話さない時間にも、ちゃんと意味がある。

それはただの無音じゃなくて、

お互いにちゃんと「ここにいるよ」とわかっている時間。

言葉にしなくても、伝わることがあるって、ちょっとすごいことだと思う。

静かだけど、あたたかい。

そういう沈黙には、美しさがある。


 不完全なものにも、心が動く。

たとえば欠けたお皿を大事にしている人がいて、

それを見ると、そこにちゃんと「時間」があるように感じる。

ピカピカのものよりも、なんとなく信じられるような。

まだ完成していないからこそ、そこに希望があるのかもしれない。

「まだ途中」って、案外、強い。


 毎日繰り返されることのなかにも、美しさはある。

波の音とか、朝が来ることとか、歩くリズムとか。

変わらないように見えて、少しずつ変わっている。

それに気づけたとき、ちょっとだけ、世界と目が合った気がする。


 そして、誰かのまなざし。

言葉にしなくても、「美しい」と思っている視線って伝わる。

何かを大事そうに見つめている人がそばにいるだけで、

その場の空気がやわらかくなる。

ああ、この人は今、生きているってことを大切に思ってるんだなって。

そんなふうに感じる瞬間が、美しい。


 美しさって、きっと特別なことじゃない。

あたりまえのなかにあって、ただそれを受けとる心があるかどうか。

大切なのは、感じようとすること。

それがあるだけで、もうすでに十分なのだと思う。


 いま、誰かと静かに向かい合って、

目には見えないけれど「ここに一緒にいる」って確かに感じられる時間。

競わなくてもいいし、無理に背伸びしなくてもいい。

ただ、わかちあうことのあたたかさに気づけたとき、

それがどんなに尊いことか。

そういう心があるだけで、

世界はちゃんと、美しくなっている。




美の物語と考察


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