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美の物語3音楽に感じる美との共通点

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 8 時間前
  • 読了時間: 2分

2025/4/5



「ひとつの音から始まった」より


 静かな港町に、ユイという耳のよく聴こえない少女がいた。彼女は話すこともあまり得意ではなかったけれど、小さなカリンバを抱えてよく海辺に座っていた。


 ユイの音は、誰にとっても奇妙だった。リズムもなく、調もなく、まるで風の音のように、ただ鳴っては消える。


 けれどある日、都会から来た音楽家のキョウが、その音を耳にした。


「……この子、音楽を“見て”いるのかもしれない」



 キョウはユイに尋ねた。


「君の音は、何を見ているの?」


 ユイは、ゆっくりとカリンバを鳴らした。

 ポロン…ポロン… 音が、海に浮かぶ月をなぞるように揺れていた。


 彼女は小さく書いた文字を渡す。


「音が、光になるの。波の上で、きらきらって。音は、見えるよ。色もある」


 キョウは息を呑んだ。



 その夜、キョウはユイの音を譜面に起こしながら、ふと考えた。

「私たちは、耳で音を聴いているつもりで、実は“心で共鳴している”んだ」


 視覚の美も、聴覚の美も、本質は「心がそれに共鳴するかどうか」にかかっている。


 視る美が「空間の中の共鳴」なら、

 聴く美は「時間の中の共鳴」。


 波の重なり、間(ま)、残響、静けさ――

音楽には、目に見えない余白があり、それが「美しさ」を生む。



 やがてユイとキョウは、即興で音を重ねるようになった。

カリンバとピアノが、海辺で夜風に揺れる。


 音は、言葉を超えて心を通わせる。

ふたりは違う言語で育ち、違う感覚を持っていたが、

「美しいと思う瞬間は、同じだった」。



「音楽も、色彩も、匂いも――“美しい”と感じるその瞬間、私たちは、世界と同じ波で揺れているのかもしれないね」──キョウの手記より


「音楽に感じる美との共通点」了

 

あとがき


 美しさとは、何だろう。数値にできそうで、できないもののひとつかもしれない。というのも、それは主観の領域に属するように思われているからだ。それは目に見えるものだけではない、例えば音楽には、目に見えない余白があり、そこにも「美しさ」が潜んでいる。美醜の感覚は国や文化によって揺らぐものだが、それでもなお、何かしらの共通項が存在している気がする。こうした、誰もが感じるようでいて、説明のつかない感覚。これを、いったい何と呼べばいいのだろう。美に迫る物語第三弾。

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