紙と記憶その21「舟を編む」
- Napple
- 4 時間前
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2025/8/14

三浦しをん「舟を編む」を読んだ。さまざまなことを思わせる見事なタイトルに改めて感心する。軽妙な語り口は心地よく。気がつくと読み終えていた。出だしから「犬」という言葉について、なるほどと頷きたくなることを書き連ねた。これが小説の出だしだった。映画もドラマも始まりは違う。しかもドラマは、小説の前半が大胆に削られている。映画は小説に沿っているが、中心となる人物が異なっていた。だから、同じ物語なのに、見える景色がずいぶん変わる。
ドラマと映画を先に観てから小説を手に取った。小説を読みながら、そんなドラマや映画の場面が風景として浮かぶけれど、やはり文字で綴られた物語と映像は別物に思えた。ドラマも印象的なセリフが多いが、それらは必ずしも小説の言葉そのままではない。小説からは、最も濃く、言葉への愛情が立ち上がってくる。著者は辞書が万能でないと知り、落胆するどころか、かえって愛着を覚えたという。その感覚が、物語全体を温かくしている。
同じ「舟」を漕ぎ出す物語でも、小説、映画、ドラマはそれぞれ違う港から出航しているようだ。いずれも素敵だが、小説の終わりには、マジメ君がカグヤさんに宛てたラブレターが付いていた。さらにミドリさんとニシオカ先輩の解説まで添えられていて、言葉の舟は最後まで念入りに編まれていた。
続く
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