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美の物語2文化と進化の両面からの美の解釈

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 6 日前
  • 読了時間: 2分

2025/4/5



「青の記憶と赤の血」より


 ある国に、二つの民族が住んでいた。


 ひとつは「青の民」――広い空と静かな水辺を愛し、淡い色彩を神聖なものと考えた人々。彼らにとって、美しいとは「余白」と「移ろい」に宿るものだった。


 もうひとつは「赤の民」――火山のふもとで暮らし、生命力にあふれた強烈な色や形に美を見出す人々。彼らにとって、美しいとは「躍動」と「力強さ」だった。


 あるとき、ふたつの民が交流することとなり、若き語り部であるセナ(青の民)と、戦士の家に生まれた少女アマ(赤の民)が出会う。


 セナは、アマの装飾された武具や赤黒い文様を「怖い」と感じ、アマは、セナの描く霞むような絵や余白だらけの詩を「弱い」と思った。


 だがある夜、二人は焚き火を囲んで語り合う。


 アマ「なぜそんな淡い色ばかり使う?空のように、どこにも届かない」

 セナ「でも、君の火は、近すぎて、見る者の目を焼く」


 沈黙。けれどそのあと、セナが小さな声で言った。


「美って、どうして感じるんだろうね。どちらの民にも、美はある。でもまるで正反対だ」



 翌朝、二人は村の長老オロチのもとを訪ねる。


 オロチは語る。


「美とは、生き延びるために生まれた感覚だ。静寂を美しいと感じる者は、争いを避ける道を選び、鮮やかな色を美しいと感じる者は、命の危機に強く反応する。どちらも進化の“知恵”じゃ」


 セナが問う。


「じゃあ、美って、ただの生存戦略なの?」


 オロチは首を振った。


「最初はそうだった。しかし文化が芽吹いた。美しさを“意味”として語り、他者と共有するようになったとき、美は“進化”を超えた。それは、心が“物語”を語るために編んだ、もう一つの言語だ」



 その夜、セナとアマは、ひとつの詩を共に紡いだ。


赤い花が咲く

青い風が吹く

ふたつの色は

ひとつの光に溶けて

こころのなかに、美となる


 そして二人は気づいた。

 美しさは違っていても、感じようとする心は、ひとつだったと。



「文化と進化の両面からの美の解釈」了

 

あとがき


「美しさは違っていても、感じようとする心は、ひとつ」ーーー例え異なる文化の元に育っても美しいと感じる心は同じように芽生える。そこに分かり合える可能性があるに違いない。美に迫る物語第二弾。



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