酒

2026/9/13

酒には醸造酒、蒸留酒、混成酒の三つがあるらしい。 果物や穀物をそのまま発酵させたのがビールやワイン、日本酒。それを熱して蒸気を集め、強い液体に仕立てたのがウイスキーや焼酎、スピリッツ。そこに香草や果実を漬け込んだのがリキュールや梅酒だそうだ。
そんな知識は後になって知ったことで、若い頃の私にとって、酒といえばもっと荒々しく、身の置き所に困るような代物であった。
私の両親は酒を嗜まなかったから、実家の食卓に徳利や瓶が並ぶことはなかった。高校を卒業した春、友人の部屋で初めてウイスキーを口にした。胸がカッと熱くなり、世界が少しだけゆがむ感覚は面白かったが、調子に乗って飲みすぎ、ひどい気持ち悪さに襲われた。「酒など小さじ一杯分も飲んでやるものか」と誓ったはずなのに、大学に入ればそうもいかない。コンパで杯を交わし、気取った店のカウンターで、女の子の目を意識しながら「バーボンを」などと注文してみたりした。
やがて飲み屋でアルバイトを始めた。氷を砕き、板わさを切り、エイヒレを炙る日々の中で、ハーパーやジャックダニエル、オールドパーにシーバスリーガルといった名前と味が、舌の記憶に刻まれていった。もっとも、当時の私に味の妙など分かっていたはずもなく、ただ無骨に喉へ流し込んでいただけの、大雑把な時代のことである。
歳月が流れるにつれ、酒との縁はいつの間にか薄れていった。酒そのものというより、酒がそこにある静かな佇まいや雰囲気が嫌いではなく、いくつか瓶を部屋の隅に置いてはいたものの、相変わらず酒の深みは分からぬままであった。
それが最近、ふと観た映画に触発され、母の喜ぶ顔が見たくて久しぶりに小さな瓶を買ってきた。グラスに注ぎ、母と向かい合ってちびちびと口を湿らせてみる。 大昔のあの大雑把な狂騒が遠い幻であったかのように、いま、酒というものがようやく、私の暮らしの片隅に静かに腰を下ろしたような気がしている。
ちょっと整理
1. 醸造酒
原料の穀物や果実を酵母でアルコール発酵させて造る。アルコール度数は比較的低め。
ビール:麦芽・ホップ・水を原料とし、発酵させて造る。
ワイン:ブドウの果実や皮などを原料にして造る。
日本酒:米や米こうじを原料にして造る。
2. 蒸留酒
醸造酒を一度沸騰させて気化させ、その蒸気を冷やして液体に戻す(蒸留する)ことで、アルコール度数を高くしたお酒。
ウイスキー:穀物を麦芽などで糖化・発酵させ、蒸留後に樽で熟成させる。
ブランデー:果実酒(主にブドウ)を蒸留して造られる。
焼酎:米、麦、芋などの原料を蒸留して造られる日本の伝統的なお酒。
スピリッツ:ジン、ウォッカ、ラム、テキーラなど、高度に蒸留された透明感のあるお酒の総称。
3. 混成酒
醸造酒や蒸留酒に、果実、香料、糖分、薬草などを加えて作られるお酒。
リキュール:お酒にハーブや果汁、シロップなどを混ぜたもの。
梅酒:梅の実を焼酎やホワイトリカー、砂糖などとともに漬け込んで造る。
ベルモット:ワインに香草やスパイスを加えて風味をつけたお酒。


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