多様な美味しさを味合わせてくれるシングルオリジン。そうした良質な珈琲豆を手軽に入手できる今、ブレンドは必要だろうか。好みのシングルオリジンをお気に入りの淹れ方で飲めればこんな素敵なことはない。わざわざ他の豆と混ぜる必要があるだろうか。でも巷にはブレンド珈琲が溢れている。ブレンドの必然性ってなんだろう。
ブレンドを探ってみようと思う。
ブレンダーの気持ちを探る
ブレンドの基本を調べる
ブレンドの実験方法を決める
ブレンドする豆を選定する
ブレンドの実験
オリジナルブレンドを創る
ブレンドの必然性を考察する
第1段階:ブレンダーの気持ちを探る
提供する側にとってロスが少なく、歩留まりもよく、消費者も納得する価格の珈琲、そういった手段としてのブレンドじゃなく、足りないものを補うというか、足りないのが前提だったところから始まったブレンドも、良質なシングルオリジンが手に入る今、様子が変わってきているはずだ。巷のブレンダーはどんな思いでブレンドしているのだろう。
BRUTUS「ブレンドとモーニングコーヒー」を見つけた。そこには、まさに感じていることが語られていた。そこで語られている言葉を拾い、気になるワードを調べて整理する。
あるブレンダーはシチュエーションをイメージしてブレンドする。例えば朝のモーニングに合う珈琲は薄めでたっぷり飲みたいとか、ディナーの珈琲は食事を邪魔しないようにとか。飲む側の気持ちに寄り添ったブレンドをする。
あるブレンダーはブレンドすることで表現する。温度や湿度などその日のコンディション、そして季節に合わせた珈琲の味を求めてブレンドする。
あるブレンダーはブレンドはセッションのようだと言う。ハンドドリップで淹れるシングルオリジンがあっさりとしたアコースティックだとすると、マシンで入れるブレンドはバンドセッション。しっかりしたボディのドラム、ベースラインがあって、柑橘やフローラル系のギター、スパイシーなエッセンスのホーンセッション、鼻に抜ける芳香はエコーを効かせた深いダブ。それらをエスプレッソマシンで抽出した時に最高のパフォーマンスを発揮するようにブレンドする。
あるブレンダーはストレートがソロなら、ブレンドはアンサンブルだと言う。焙煎で酸味や苦味はコントロールできるが、柔らかさや香りの広がりを加えるために、焙煎だけではできないことをブレンドで表現する。
あるブレンダーは香りに重点を置いてブレンドする。料理の香りに包まれたレストランで、珈琲を淹れたとき、香りのコントラストが際立って、より魅力的に感じられるようブレンドする。
あるブレンダーは、飲み手の要求を満たすブレンドを行う。例えば「甘さを残しながらも清涼感のある味わい」をリクエストされれば、コロンビアなどの中南米の豆で甘さを出し、エチオピアの華やかな香りとゲイシャで爽やかさを構築、配合バランスを試飲して決定する。
ブレンダーは生産地と密接な関係を持っている場合が多く、生産者を知っていると、手を加えることに抵抗を感じることもある。それでもブレンドするのは、それを超えたところにある世界に魅力を感じているからだという。
一途に励む人の言葉には説得力がある。そこには万人に向けた思いや、あるいは個人に向けた明確なイメージがある。なるほどと感心することばかりだ。こう言うことならばブレンドに意義を感じる。自分ならどうしようかと想いも湧いてくる。まだ珈琲についてわからないことは多いが、だれかに向けたブレンドを考案してみたくなる。そうだ、母に向けてシチュエーションや季節に応じたブレンドを考えてみよう。6番目のブレンダーの言葉は具体的でゲイシャが気に入っている母も喜んでくれそうで試したくなる。
追記
本書には片岡義男のエッセイや地元焙煎所の記事が載っている。
片岡義男のエッセイ「モーニング珈琲が呼ぶ」は、書籍「珈琲が呼ぶ」には収録されていない珈琲のお話で、彼らしいモーニング論が面白い。
ロースタリーのブレンド紹介記事に「天竜珈琲焙煎所 Nelcafe Milestone」が紹介されている。飲み干したカップの香りが翌日も残るほど強いのに、綺麗にフェードアウトする上質な苦味の至福のブレンドだという。次回はぜひこのブレンドを飲んでみたい。メジャーな雑誌で地元のお店が紹介されるのは珍しくなんだか嬉しい。
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