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執筆者の写真Yukihiro Nakamura

コーヒーもう一杯

更新日:2020年2月15日


 台風が迫っていた。以前は血が騒いだものだが、最近の台風は怖い。被害が尋常じゃない。不安な気持ちをなだめるように珈琲を淹れた。

 ゆっくりと北上してくる台風を敏感に感じて飼い犬が怯えている。日が暮れる頃ようやく降り出した雨。まだ風は強くないけれど、大気はピリピリと張り詰めている。気がつくともう珈琲を飲み終えていた。コーヒーもう一杯。


 このフレーズでボブ・ディランの「One More Cup Of Coffee」を思い出す。ボブ・ディランの曲はそんなに聞かないけれど、この曲は気に入っている。バイオリンの寂しげな音と、ディランのしわがれた声、彼女との別れ際に「もう一杯コーヒーを」と言いながら、別れの時を引き伸ばしているらしい。

きみの息は甘くて

きみの目は空に浮かぶ2つの宝石

きみの背筋はまっすぐで

きみの髪は滑らかだ

横たわる枕の上の

だけど感情は感じられない

感謝も愛情もない

絆は私にではなく

上空の星に対してだ

もう一杯コーヒーを

別れのしるしに

もう一杯コーヒーを

去りゆく前に

麓の谷へと

きみの父親はアウトローで

放浪が仕事

彼がえり好みの仕方を教えてくれるだろう

そしてナイフの投げ方を

彼は自身の王国を監視する

よそ者が押し入らないように

彼の叫ぶにつれ震える声

もう一皿と食べ物を求める時の

もう一杯コーヒーを

別れのしるしに

もう一杯コーヒーを

去りゆく前に

麓の谷へと

きみの姉妹の将来がはっきり見えるよ

きみのママやきみ自身のように

きみは決して読み書きを習わず

本棚には本がない

そしてきみは満ち足りることの限りを知らず

声はマキバドリみたいだ

だけど心は海のようだ

神秘的で暗黒だ

もう一杯コーヒーを

別れのしるしに

もう一杯コーヒーを

去りゆく前に

麓の谷へと


 彼の歌声を聞きながら、山川直人の「コーヒーもう一杯」をブックストアで立ち読みする。ボブ・ディランの「コーヒーもう一杯」とはなんの関係もないけれど、ボブ・ディランを聴きながら描いたそうだ。丁寧に描かれた絵は学生時代を思い出す。


 同じくブックストアで見つけた重松清の「コーヒーもう一杯」をポチって読み始めた。こちらも彼女と別れるお話。いつの時代も別れのひと時は珈琲の世話になる。


 珈琲は不思議な飲み物だ。珈琲のおかげで魔法にかけられることもあれば、魔法が解けることもある。珈琲はタイムマシンにもなる。そんなことを思いながらコーヒーをもう一杯。気がつくと台風は過ぎ去っていた。我が家の無事をありがたく思う。


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