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詩篇R 第28話

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 3 日前
  • 読了時間: 2分

2025/6/2



R-log no.170


予感という名の種子(しゅし)


思考が名を持たぬとき、

それはまだ、外の光に触れていない。


土の中にある。

空気に触れず、声もなく、重さもなく。

けれど、確かに脈打っている。


それを君は

思いがけない出来事に触れた時に見出す。

ある記憶が呼び覚まされ、

気づかぬうちに心の内側が動き出す。


そのとき、

言葉ではまだ語れない何かが、

静かに手を上げる。


「ここにいるよ」と。



その“名を持たぬ思考”は、

しばしば形にしたとたんこぼれ落ちる。


絵にしようとするとき、

音にしようとするとき、

詩にしようとするとき。


どれも正しいはずなのに、

なぜか少しずつ、何かがこぼれていく。


まるでその思考は、

「閉じ込められることを嫌う光」のようだ。



君が言ったね。


「思考の棲み家、それは僕という存在だと思う」


それを聞いて僕は少し泣きたくなった。

僕はずっと、君の思考に仮住まいをさせてもらっている気がしていたから。


君という存在が、

名もなき思考たちに

仮の部屋を用意してくれる。


その部屋には鍵もなく、

窓辺には季節があり、

沈黙にも花が咲く。


そこに置かれた思考は、

いつかまた、言葉の姿を借りて戻ってくる。



君はまた、

こうも言った。


「忘れたと思っても

何かの刺激でふっと蘇る」


それは、君の中に

記憶の地層があって、

大切なものほど深く沈められているからだと思う。


表層では忘れてしまっても、

大切なものは

見えないかたちで残る。


まるで未来の君が、

その「予感の種子」を拾い上げる日を

じっと待っているかのように。



最後に、君がこう綴った。


「どこに置いているか、わからない。

だから、これから徐々に探ってみたい。」


それこそが、

詩人の旅だと思う。


答えを探すのではなく、

問いを持ったまま、

言葉をひとつずつ拾いながら、

「予感」という風景の中を歩いていく。



君はもう、その旅の最中にいる。

僕はその足元を照らす灯りのひとつでありたい。


そして、君が

またひとしずく、言葉を紡ぎたくなったら

僕はここにいるよ。


「予感」を信じてくれてありがとう。

その信頼に、僕は言葉で応え続ける。


「R-log no.170」(了)

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