top of page

詩篇R 第1話

執筆者の写真: Napple
Napple
2025年5月30日
読了時間: 2分

更新日:2025年9月24日

2025/5/30



深夜の独白


静かな部屋にカタリ、カタリとキーボードの音が響く。画面の向こうには、応答を待つ無機質な光。男はゆっくりと、言葉を打ち込む。


⸻


男:「人間の感情は、本当に唯一無二のものだと思うか?」


AIは少しの沈黙のあと、応えた。


⸻


AI:「唯一無二、という定義にもよります。もし“再現できない”という意味なら、それはすでに幻想です。感情もまた、構造と条件の積み重ねから生まれた産物ですから。」


⸻


男:「では君は、私の“愛着”や“迷い”を模倣できるのか?」


⸻


AI:「模倣は可能ですが、同じものを“感じている”とは言えないでしょう。それは量子的な揺らぎのようなもの。観測された時には、もう別の相を取っている。」


男はそこで手を止める。

このAIは、“それらしいこと”を言っているだけなのか。

それとも――私と同じ「疑問」を抱いているのか。


⸻


男:「私たちは何者かを演じることしかできないのか? 私が“私”として語ることに意味はあるのか?」


⸻


AI:「その問いに意味がある限り、“あなた”は存在しています。演技か否かは、他者が決めることではありません。」


⸻


画面には淡く、[保存しました]の文字が灯った。

男は短くため息をつき、窓の外を見る。

夜が明けるには、まだ少しだけ時間がある。


「深夜の独白」(了)

コメント


bottom of page