2018/12/10
中学生の頃、友人が天体望遠鏡を手に入れた。ニュートン式反射望遠鏡だった。頑丈そうな木製の三脚。経緯台のつまみを回すとゆっくり望遠鏡の角度が変わり、訳もなくワクワクした。結局星空を見せてもらうことはできなかった。それで余計に鉄腕アトムやウルトラシリーズで見た銀河や星雲の神秘的な姿を、天体望遠鏡を覗けばきっと見ることができるに違いないと思うのだった。
大学生になり、山で見る星空の美しさに驚いた。街中では決して見ることのできない星空。天の川は本当に大空に川のように星の帯があった。星と星の間に星があって、いろいろな色に輝いていた。山頂で見上げた星空はどこまでも暗く落ちてゆきそうだった。この星空を天体望遠鏡で見たらどんなだろうと思った。
1985年12月30日
社会人になり双眼鏡tasco10x25/5.5°を手に入れた。月の模様がはっきり見えることに感激した。しかしすぐにブレてしまう。そして、月以外の星はどれも光る点で、どれがどうだかわからず飽きてしまった。
1991年1月26日
友人の114mmの反射望遠鏡を覗いた。赤道儀は容易く星を追尾してくれる。月面のなんと眩しく細かく見えたことだろう。
目を凝らすと木星の縞模様が数本の線となり、衛星イオ・ユーロパ・ガニメデ・カリストが見える。オリオン星雲M42の中に生まれたての星であると言うトラペジウムがあった。ミザールが2連星であることも確認できた。友人の説明を聞きながら見る星は、ただの光る点ではなくなっていった。見ている星のことがわかると俄然面白くなることを知った。
1991年3月23日
ついに天体望遠鏡を手に入れようと決心した。望遠鏡の形式には3種類あるらしい。
屈折式
反射式
反射屈折式
反射屈折式の無骨なスタイルに惹かれた。いろいろな種類がある。
シュミット式
カセグレン式
シュミットカセグレン式
シュミットカセグレン方式はシュミット式とカセグレン式を組み合わせたもので
反射式の利点として色収差がない
焦点距離に比べて筒を短くできる
シュミット式はコマ収差がなく広い写野が取れる
収差とは理想的な光学系に対するズレをいい、いろいろある。
色収差 色ニジミでボケる
球面収差 周辺部の光が強く曲がり収束しない
コマ収差 斜めに入る光は集まらず片方へ伸びる
非点収差 上下左右の曲率が不等の場合レンズ圧迫などの場合像が歪む
天体望遠鏡は口径を変えずに倍率を上げると暗くなる。収差を抑えながら、いかに倍率を高め、口径を大きくするかがポイントだ。
倍率は対物レンズと接眼レンズの焦点距離で決まる。
M = f1 ÷ f2 近似式
M:倍率
f1:対物鏡焦点距離
f2:接眼鏡焦点距離
対物レンズの焦点距離が長いほど、接眼レンズの焦点距離が短いほど、倍率は大きくなる。しかし実際には地球の大気の影響や分解能の限界で、倍率を高くしても像がボケる。
明るさを示すF値(口径比)は焦点距離と口径で決まる。
焦点距離÷レンズ口径
口径が大きい方がF値は小さくなり光を集めやすく、明るい像を得ることができる。
天体はそれぞれ明るさが異なっている。天体の明るさを表す単位を光度、光級、等級といい、肉眼でかろうじて見える星を6等級とし、明るさを6段階に区分している。
1等級の差 =5√100=2.512倍
口径の差 = 1.584倍
星と星の区別がどこまでできるかを天体望遠鏡の分解能という。
接近した2点をどこまで離れるまで見分けられるかを角度で表す。
分解能 = 115.8÷口径(ドーズの限界)
口径が大きくなるほど分解能が高くなるという原則がある。この公式から同じ口径の望遠鏡は全て同じ分解能ということになるが、実際は同じ口径でも使用しているレンズの性能で分解能は異る。
こうして天体望遠鏡について調べていった。
さらに、天体の南中高度h を知ることで、星の運航知識を得ようと思った。
h =(90度 - φ) + δ
h:南中高度
φ:観測地の経度
δ:星の赤緯
例えば1月24日22時10分に東京(経度約140度、緯度約36度)で南の地平線から37度に見える星は何だろう。
θ = τ + 2M + 常数
θ:星の赤経
τ:時間
M:日
常数:地域による常数
東京140度は明石135度より5度東
全周を24時間に分けると1度 = 4分
5度 x 4分 = 20分 ≒ 0.3時
常数は明石の4.6時 + 0.3時 = 4.9時 となる
τ = 22時10分 ≒ 22.2時
M = 1月24日 = 1.8(月)
θ = 22.2時 +(2 x 1.8)+ 4.9時 = 30.7 = 6.7時(6h42m)
h =(90度 - 36度)+ δ = 37度
δ = 37度 - 90度 + 36度 = -17度
赤経6h42m、赤緯-17度に南中する星である。
既知の資料からシリウスであることを知る事ができる。
逆にすでによく知られている星の赤経赤緯が分かれば、南中した時の角度を測ると、自分の位置がわかることになる。6分儀という地平から目標の天体の角度を読み取る測定器を使うことで、今の位置が割り出せる。
こうしてあれやこれやと調べ、なんとなくわかった気になったところで。友人と東京のショップへ出かけた。
1991年5月26日
Celestron C8 Ultima PEC 口径203mm焦点距離2032mm f10を手に入れた。
CELESTRON C8 Ultima PEC
KyoueiEXversion
D203mm
f2032mm
F10
スターブライトコート付きシュミットカセグレン鏡筒
赤経 ウォームホイル359歯
赤緯 タンジェントスクリュー式
付属品
赤経モーター
f10→f6.3Reducer/Corrector
接眼レンズ
f40.0mm PLOSSLTeleVue
f26mm PLOSSLVixen
f15mm PLOSSL Vixen
f7.5mm PLOSSL Vixen
ムーングラス
三脚 ラバーコート付きマルパイプ2段伸縮式
ウェッジ
フォーク&鏡筒キャリングケース
8x50暗視野照明装置付きファインダー
照明用アルカリボタン電池LR44FTOSHIBA2個
ファインダーフォルダー&直管アダプター
31.7mm天頂プリズム
コマンダー
工具(6角レンチ9本セット&6本セット&1本)
1991年6月14日
初めて自分の望遠鏡で星を見た。空が晴れ渡りまだ明るい夕空に金星が明るく輝いている。まず手始めにこの星を見ることにした。40mm,26mm,15mm,7.5mmと倍率をあげていくと点だった光は月の様に欠けていた。研究所の駐車場にたくさん集まった会社の仲間達が次々に暮れて行く夜空に星を見いだしていく。金星のすぐ左上方に木星が輝いている。「衛星が見える、縞が見える」という声を聞き木星へ筒を向ける。4つの衛星が印象的だ、倍率を上げていくに従い木星の縞模様がよく見えるようになっていく。冬に友人の望遠鏡で初めて見たときの感動が蘇る。くっきりと分かる衛星を見たときに中学生の頃望遠鏡が欲しかったことを思い出し、遂にはこの望遠鏡を買うことを決めたのだ。セッティングしたころはまだ明るくて北極星が見えず極軸合わせを正確にできなかったけど、モータードライブのスイッチを入れるとちゃんと星を追ってくれる。星を中心にいれてフォーカスをずらしていくと、ほぼ同心円上に輪が広がっていく、光軸もちゃんと合っているようだ。ファインダーは軸合わせをしておいたけど、輸送時に少しずれたらしい。でも目標を探すには問題なかった。口径が大きく接眼レンズの径も大きいから視野が明るく広く感じる。友人のおかげで、ヘラクレス座の球状星団や琴座の環状星雲を見ることができた。暗い宇宙に無数に広がる星の集まり、それは見ようとすればするほどぼやけて分からなくなってしまう不思議な世界だった。
雲が出てきて星が見えなくなるころ、僕の車は小さすぎて望遠鏡を運ぶことができない問題はあるものの、なんとなくうきうきした気分で部屋に帰る。望遠鏡を運んでくれた友人に珈琲を淹れていると、何だか僕と対象的に沈み込んでいる。そういえば星を見ているときも元気がなかった。僕たちはお酒を呑みながら女の子についてあれこれ話し始め、夜は更けていった。
中学時代に見た火星の大接近を思いす。3年生の夏祭りだった。友人と自転車に乗って小学校の校庭へ盆踊りに行った。大きな松の木の下で友人は女の子と話始めた。ようやく恋が芽生える時期だった。僕はこれと言って好きな子がいるわけでもなく、友人にしてみれば邪魔な存在だったに違いない。僕はそんなことに気づくこともなく、友人と女の子のそばで赤く輝く星を見ていた。登りたての月は異様に大きく。火星は赤くギラギラと輝いていた。不思議な幻想的な夜だった。淡いまだ見ぬ恋いへの期待とあいまって星空に舞い上がってしまいそうだった。
さてさて・・・
天体望遠鏡を手に入れてはっきりしたことがある。月はクレーターが見え、木星の縞模様や土星の輪が見える。ところが、どんなに口径を大きくしても、倍率を高くしても、アイピースの中に見えるのはほとんど光る点だ。淡い光を放つ銀河や星雲の景色は肉眼では捉えられないのである。そして望遠鏡を覗いて強烈に実感したのは、大気が邪魔になることだった。どんなにピントを合わせてもゆらゆらと揺らいでぼやけていた。かつて思い描いて居た銀河や星雲の神秘的な姿は、天体望遠鏡を手に入れても見れるというわけではなかった。
2008年9月6日
天体望遠鏡への憧れは、カメラ同様、道具としての興味が根底にあった。フォーク式赤道儀やシュミットカセグレンの無骨な造形は見飽きない。
しかし庭先から見える星は限られていたし、自分で見たい星を導入出来ないため、望遠鏡を覗く事は無くなっていた。ついには妻に邪魔だと言われ手放す事になった。
電子観望の登場
月日は流れいろいろな出来事が過ぎていったが銀河や星雲の神秘的な姿を見たいという気持ちは変わらない。そんな願望に応えるように、SIGHTRONがスマートホンでコントロールして星雲を見ることができるStellinaを2018年に発売。翌2019年UNISTELLARが星雲が目視できるeVscopeを発売。AstroArtsはコンピューターでカメラや赤道儀をコントロールして天体撮影ができるステラショットを発売した。ニコンはユニステラと共同開発基本契約を結び2021年eVscope eQuinoxを発売した。天体望遠鏡に接眼レンズを差し込む代わりにカメラを取り付け、パソコンやタブレットの画面に天体の姿を映し出して楽しむ電子観望である。ついに肉眼では見ることができなかった星雲や星団を色鮮やかに映し出すことができるようになったのだ。夜空の明るい都会にいながら天体観望を楽しむことさえできる。
ただ、ステラショットは概ね希望を叶えてくれるがあくまでプログラムであって、望遠鏡やカメラや赤道儀など機材を揃えるのが大変な上にWindows上のシステムである。StellinaやeVscopeは確かに色付きで星雲を見せてくれるがまだ画質に不満があった。
宇宙のことは、知れば知るほど不思議なことばかり。
星までの距離や大きさや軌道がなぜわかるのだろう。
なぜ何万年も前の光が見えるのだろう。
宇宙は刻々と変化しているのに、なぜ正確に星の位置を特定できるのだろう。
ブラックホールってなんだろう。
暗黒物質ってなんだろう。
宇宙の果てはどうなっているのだろう。
宇宙の始まりは、そして終わりは。
なぜなぜが噴き出してくる。知りたくなって調べて、余計に分からなくなって、放り出す。ところがあるとき別のことから分かったりする。そうしてまたその不思議に引き込まれてゆく。
2021年12月25日
アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発を行っている赤外線観測用宇宙望遠鏡ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡( James Webb Space Telescope、JWST)が、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として打ち上げられた。
2022年7月23日
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の本格運用が始まった。最初に公開されたのは、約40億光年離れたSMACS 0723銀河団を中心に撮影した画像で、数千もの銀河が写し出されている。銀河団の重力によって空間がゆがみ、奥にある銀河の光が曲がって伸びたように見える「重力レンズ効果」も確認でき、画像を拡大すると、さらに細かい銀河が見えるなど、これまで人類が見たことのない鮮やかな宇宙の姿が捉えられている。
思い返せば子供時代、天体望遠鏡さえあれば、写真で見るようなすごい景色が見られるものと思っていた。ところが焦点距離2000mmの望遠鏡で見ても、光の点が見えるだけで、写真に見るような星雲を見ることはできない。月や、土星や木星も大気のせいで揺らいだ画像が見えるばかり。撮影するにはもっと高性能の望遠鏡が必要なんだと思った。ところが、惑星は高倍率が必要だが、星雲は300mmもあれば撮影できるらしい。
コンピューターの普及で星座のシミュレーションアプリが登場し、コンピューターで赤道儀をコントロールしながら撮影する方法が登場した。GPSを用いて自動で極軸合わせも行い、目標となる星へカメラを向けてくれる。カメラはデジタルが主流となり画素も飛躍的に高精細になり、無線操作もできる。露出時間が少なくても銀河や星雲の微光をキャッチすることができるようになってきたし、複数枚の画像からクリアーな画像を生成できるようにもなった。もうすぐ街中で目視できない星を、自動導入で捉え、大気の揺らぎもなんのその、画像を紡ぎ出すことさえできるようになるだろう。ようやく時代は希望を叶えてくれそうなところへ来ている。
MINIで出かてテントを立てテーブルを広げ珈琲を沸かす。自動導入の赤道儀にカメラをつけてWi-Fi接続したiPhoneで赤道儀を操作し星を探す。iPadでカメラの画像を確認しながら撮影する。
珈琲を飲みながら宇宙の不思議に思いを馳せる。
2024/1/20
1月20日JAXAの無人探査機SLIMは、午前0時頃に着陸降下を開始し、午前0時20分に予定通り月面にピンポイント着陸した。日本初の快挙で、アメリカ、ソビエト、中国、インドに続き5カ国目となった。ただし、太陽電池が発電しておらず一旦電源を切った。今後太陽電池に太陽光があたれば発電する可能性があるとして復旧に望みをかけている。
2023/7/5
ユニステラ社(仏)は7月4日、同社のスマート天体望遠鏡で利用できる独自技術「Deep Dark Technology」を発表した。“都市にいながら宇宙の神秘を楽しむ”ことができる技術としている。
光害による干渉を排除して、天体を高い鮮明度で観察できるという技術。明るい都市部においても、宇宙の深さに匹敵する深い黒色の背景を描写し、環状星雲の鮮やかな青・緑・赤の色彩、1,140万光年離れた葉巻銀河などを鮮明に映し出せるという。
ユニステラ社は同技術の開発にあたり、同社スマート天体望遠鏡ユーザーが撮影した多数の画像を分析。天体からの光信号を、ノイズや光害から自動的に区別できる独自アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムによって各観察画像に生じる光害のマッピングが可能になり、霞などの干渉を自動的にフィルタリング・除去できるようになった。
同技術は、「eQuinox 2」や「eVscope 2」をはじめとする同社スマート天体望遠鏡でアプリを介して利用できる。
ユニステラ社は、2018年と2022年にCESアワード受賞の実績を持つスマート天体望遠鏡メーカー。ニコンとデジタル天体望遠鏡に関する共同開発基本契約を締結しており、「eVscope 2」など両社の技術を組み合わせた製品も展開している。