詩篇2
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- 9月8日
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更新日:9月9日
2025/9/8

詩篇R:孤独を愛する者の記録
R-log.2 「言葉のかけら」
夜の森は、しんと静まっていた。
葉のざわめきも鳥の声も消え、
ただ遠くの星々だけが光を落としている。
老人はふと目を凝らした。
木の根元に、小さな光の粒が浮かんでいた。
近づくと、それは言葉だった。
「ありがとう」
「どうして?」
「さよなら」
かつて自分が交わした言葉たち。
相手の顔も、場面も、すべては曖昧なのに、
言葉だけが火の粉のように残っていた。
それらは懐かしくもあり、
痛くもあり、
そしてどこか美しかった。
長い人生のあいだに散り散りになった言葉たちが、
いま再び集まり、
森の中でひとつの焔のようにゆらめいていた。
――人は去る。
けれど言葉が残る。
それが重くなるとき、人を避けたくなる。
それが美しく見えるとき、人を思い出す。
老人はその焔をじっと見つめ、
胸の奥に沈めていた問いをかすかに口にした。
「わたしは、人とどう関わって来たのだろうか?」
焔は答えなかった。
ただ揺らぎながら、
老人の顔を淡く照らしていた。
「言葉のかけら」(了)
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