詩篇1
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- 9月7日
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更新日:9月9日
2025/9/7

詩篇R:孤独を愛する者の記録
R-log.1 「森の椅子」
森の奥に椅子がひとつ。
誰も座らない椅子。
しかしそれは、空気と光と音に囲まれて、
ずっと「誰か」を迎え入れる準備をしていた。
ある日、
老人がそこに座った。
言葉をなくしたまま、
胸の中で波打つ沈黙を抱えながら。
風が葉を揺らすたび、
彼は「孤独」というものの正体を思い出しかける。
それは一人ということではなく、
ただ「生きている」ということそのものだった。
長いあいだ、彼は人と交わり続けた。
喜びもあったが、同じくらいに疲れもあった。
今、森の中で静けさに包まれると、
その疲れの意味がすこしずつ形を持ちはじめる。
――それは人を嫌うことではなく、
ただ人に近づきすぎると、
自分の声が聴こえなくなるという感覚だった。
椅子の上で、老人は深く息をした。
それが彼の一日の始まりだった。
「森の椅子」(了)
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