2021/11/21
ついにアップルTVで「ファウンデーション」が始まった。アシモフの不朽の名作、映像化が難しいと誰も手をつけなかった壮大な叙事詩にアップルが挑んだのだ。SF好きアップル好きにとってはたまらない。
「銀河帝国の興亡」を読んだのは今から30数年前でほとんど覚えていない。こんなだったかと久しぶりに原作のさわりを読むと、ガールがトランターに召喚されるところから始まるあたりは原作を踏襲している。でも雰囲気が違う、そうか原作のガールは男だったんだ。空が見えない鋼鉄都市というイメージだったトランターも、宇宙エレベーターが天空にそびえる美しい庭園風景に変わった。「日本沈没」のリメイク版も、着想こそ原作のものだがストーリーは大幅に現代に合わせて書き直されている。当然ファウンデーションも然り、表現が違っていても、心理歴史学者のハリ・セルダンが銀河帝国の崩壊を予言し、銀河辺境の惑星ターミナスにファウンデーションを建設するという物語の骨子は変わらない。美しい映像とミステリアスな雰囲気で帝国と辺境が交互に描かれた。物語は回を追う度に話が複雑になってゆく。ついに霊廟が開いて死んだはずのセルダンが現れ危機が回避される・・・言いたいことは沢山あるがまずまずといった滑り出しではある。そもそも大きすぎる期待を背負いながら、満を持して始まったのだ頑張ってほしい。
ファウンデーションがどんな物語だったか振り返ると、アシモフはさまざまな物語を紡いで壮大な世界を構築していた。
1951年:ファウンデーション(ハヤカワ)銀河帝国の興亡1(創元推理)
1952年:ファウンデーション対帝国 (ハヤカワ)銀河帝国の興亡2(創元推理)
1953年:第二ファウンデーション (ハヤカワ)銀河帝国の興亡3(創元推理)
1982年:ファウンデーションの彼方へ (ハヤカワ)
1986年:ファウンデーションと地球 (ハヤカワ)
1988年:ファウンデーションへの序曲 (ハヤカワ)
1993年:ファウンデーションの誕生 (ハヤカワ)
アシモフはまず壮大な宇宙史3巻を描いた。それは個々の分子運動は予測できないが、集団の気体の平均運動は計算できるということを、人間と人間の集団に置き換えて、架空の心理歴史学という超数学を創造して、数万年にわたる人類史を見せてくれた。続編2巻が30年の時を経て書き足された。これは、人間集団の行動は実は予測などできずよりカオス的なものであると考え始めた結果かもしれない。伝説の人類発祥の地である「地球」に思いを馳せ、若きセルダンと心理歴史学誕生を描いた2巻が加わった。物語の時系列は 6 → 7 → 1 → 2 → 3 → 4 → 5 の順になっている。
1950年:宇宙の小石(ハヤカワ)
1951年:暗黒星雲の彼方に(ハヤカワ)
1952年:宇宙気流(ハヤカワ)
アシモフは別の作品でトランターの前史を描き物語の世界を膨らませてくれた。
1955年:永遠の終り
アシモフとしては珍しいタイムトラベルものの「永遠の終り」は「ファウンデーションの彼方へ」で伝説として語られさらに物語が交差してゆく。こうして彼が創造した銀河帝国の物語が少しずつリンクして行く。読者としてはワクワクして来る。
1950年:われはロボット
アシモフで忘れてはならない作品に「ロボット工学三原則」が登場する「われはロボット」がある。子供時代に読んだ石ノ森章太郎の「リュウの道」の中に、アイザックという名前のロボットとロボット工学三原則が登場した。それはまだアシモフの作品に出会う随分前の話だ。多くの子供が漫画で基礎知識を手に入れているに違いない。
1953年:鋼鉄都市
1956年:はだかの太陽
1983年:夜明けのロボット
「ロボット長編3部作」はアシモフお得意のミステリー仕立で「ロボット工学三原則」を楽しませてくれた。子供時代に身につけたロボットの基礎知識の源流を、なるほどこう言うことだったんだと納得させてくれる。そして「夜明けのロボット」では心理歴史学について語り、ロボットものの背景に銀河帝国の影を感じるようになる。
1985年:ロボットと帝国
それはついに「ロボットと帝国」で明確にファウンデーションと繋がるのである。「ファウンデーションの彼方へ」以降、ロボットの物語とファウンデーションが縦糸と横糸となって織り成され、ロボットを排斥した地球人が再び宇宙に進出して銀河帝国の礎となっていく過程や、「ロボット工学三原則」に「第零法則」が加えられてゆく。読者としては、親しみ深い物語が繋がっていた事になんとも痛快な心地がした。それは永井豪の「デビルマン」と「バイオレンスジャック」が融合してしてゆくのをワクワクしながら読んだ時の気持ちを呼びざます。贔屓にしていた別々の物語の登場人物が関わり合い始めると相乗効果を生んでドキドキが膨らんで行く。アシモフの作品は「銀河帝国」という基軸に集約していく作品群に醍醐味があったのだ。もちろん「ミクロの決死圏」や「ネメシス」も「ゴールド」も忘れられない作品であったことを記しておく。
AppleTVのファウンデーションは始まったばかり。語るべきことはまだ多くないが、クレオン1世のクローンである3世代(ブラザー・ダスク、ブラザー・デイ、ブラザー・ドーン)が共同で皇帝として君臨していたり、極彩色の砂のような粒子で描かれた動く壁画アイデアは面白い。中でも皇帝の宰相エトー・デマーゼルが気になっている。一見脇役に見えるがいわくありげな彼女こそ、ファウンデーションとロボットの物語の橋渡しのはずなのだ。スタッフがロボットの物語をどんなふうに差し込んでくるか楽しみなのである。さてAppleTVのファウンデーションは10シーズン計画されている。アシモフの構想をどこまで具現化してくれるだろう。期待と不安を抱いて次回作を待っている。
追記
おりしもアシモフ生誕100年、銀河帝国の興亡が執筆されて70年経った今映像化され、アシモフという作家が紡ぎ出した物語は後世の多くの人々に語り継がれ、新たな物語も誕生している。ファウンデーションシリーズのミッシングリングを埋める作品として「銀河帝国興亡史 新3部作」がアシモフ以外の作家によって描かれているのだ。
1999年:ファウンデーションの危機(グレゴリイ・ベンフォード)
2004年:ファウンデーションと混沌(グレッグ・ベア)
1999年:ファウンデーションの勝利(デイヴィッド・ブリン)
「ファウンデーションの危機」は読んだはずだが内容を忘れている。
スター・ウォーズの首都惑星コルサントは、機能的にも構造的にも、まさにファウンデーションの主星トランターがモデルに違いない。ジョージ・ルーカスが創造したスター・ウォーズは作者の手を離れ多くの人々が関わって無限の宇宙を紡いでいる。その先駆けとなり、多くの人にインスピレーションを与えた原点がファウンデーションにあると思う。
2023/9/21
ファウンデーションのシーズン2が始まっているのだが、あまりみる気になれない。あんなに期待していたのに。見始めてもすぐに飽きてしまう。このまま見続ける気持ちが湧かない。どうしてだろう。とっても一生懸命作っているのだけれども、物語として面白くない。それは登場人物に魅力を感じないからかもしれない。背景はとても美しいのに、人物の描き方が美しくない。官能的な表現にかえって興醒めしてしまう。そもそも話が複雑で、なんのことか分からないままあちらこちらへ話が飛び、時間軸も変化するため物語が分かりにくい。それでも文句を言いながら見ていると、色々なことがつながってようやく面白くなった。デマーゼルと皇帝の秘密が少し明かされた。ああーそう来たかー、ふむふむ、で、第二ファウンデーションは・・・そう思ったらシーズン2が終わってしまった。
追伸:
最近洋画が面白くない。それは登場人物が魅力的じゃないことが第一だ。酷い言い方になってしまうけれど、わざと不細工にしているようにさえ思える。人種やジェンダー問題がクローズアップされてから一段とその傾向が強くなった。夢や憧れを求めて映画を見るのに、リアリティーを出そうとして妙に現実を突きつけてくる。第二に速いテンポと複雑な構成で何を言っているのか分からない。歳をとってついて行けなくなったのかもしれない。第三にアクションも背景も素晴らしいのにどこか似ている。ファウンデーションも全くそういう感じだ。
漫画が面白い。「呪術廻戦」「SPYxFAMILY」「キングダム」「竜とそばかすの姫」「異世界おじさん」「チェーンソーマン」「推しの子」「青のオーケストラ」「MFゴースト」「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」昔の漫画に比べて格段に絵がいいのはCGをふんだんに使用しているからだと思うが、手書き要素をうまく盛り込んでCGくささを感じさせない。全てCGでもピクサーは動きも色気もあっていいけれど。CGを取り入れ始めた頃はパッとしなかった、宮崎吾郎の「山賊の娘ローニャ」「アーニャと魔女」などCGがなんとも不気味でぎこちない。それが最近のアニメはうまく使っている。手書きの良さがより引き立っているようだ。絵や動きのクオリティーも素晴らしいが、やはり物語そのものに魅力がある。一見単純な物語のようで、実は奥が深い。ちょっとした台詞にハッとする。つい続きが見たくなる。