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小さな街

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2024年12月24日

2024/12/23

前書き


 私の傍らに小さな街がある。縮尺1/220のジオラマだ。その風景は、閉じた空間の中で静かに完結している。駅があり、鉄道が走り、車が行き交い、山がそびえ、トンネルが口を開ける。川が流れ、その上には鉄橋が架かる。街には食堂や喫茶店も並び、小さな生活の息吹が感じられる。


 ジオラマの背後には、作りかけの鉄橋や駅、車両が雑然と並んでいる。それらは未完成の背景でありながら、完成した風景に奇妙な奥行きを与えている。私が作ったこのジオラマは、現実の風景を土台にしつつ、どこにも存在しない世界だ。そこにはいくつもの矛盾が潜んでいる。しかし、その矛盾が何の支障にもならないことが、かえって心地よい。


 小さな街の景色を眺めていると、私は不思議に喜びや心の平安を得る。そして時折、そこに住む住人となり、小道を散策してみるのだ。一枚の写真や絵に物語が込められているように、ひとつのジオラマにも物語が息づいている。


 

第一の物語:『縮尺1/220の奇跡』


第1章:影の住人


 ある日、私は自分の作ったジオラマの街角で、不思議な影を見つけた。最初は光の反射かと思ったが、次第にそれは小さな人影に見えてくる。老眼鏡をかけて目を凝らすと、鉄橋のたもとに立つ小さな男の姿がはっきりと浮かび上がった。


 「君は誰だ?」私は思わず声をかけた。すると、ジオラマの住人が小さく手を振った。


 

第2章:秘密の対話


 それからというもの、私はその小さな男と会話を交わすようになった。彼はジオラマの中で暮らし、駅員であり、食堂の常連でもあった。そして彼は、私が思い描く物語を知っているようだった。彼は語った。「この街は、あなたの心のかけらでできている」と。


 

第3章:修復の時間


 ある日、私はジオラマの喫茶店の中にいる小さな男を訪ねた。店内には陽だまりのような温もりが満ちていて、小さなカップに注がれたコーヒーの香りが漂っていた。


 「この街は、壊れることはないんだよね?」と私は尋ねた。


 男は静かに微笑み、「あなたの心が壊れない限りね」と答えた。


 その言葉を胸に、私はジオラマの修理に取りかかった。緩んだ橋の支柱を直し、欠けた駅舎の塗装を塗り直した。手を動かすたびに、私は自分の心も少しずつ修復されていくのを感じた。


 

第4章:消えた住人


 やがて、ジオラマは以前にも増して輝きを取り戻した。しかし、ある朝、私はその小さな男の姿が見えなくなっていることに気づいた。代わりに駅前には一枚の小さな紙切れが置かれていた。


 『この町は、君の物語だ』と書かれていた。


 

最終章:新たな物語へ


 私はそっとその紙をポケットにしまい、再びジオラマの町を眺めた。そこで暮らす小さな人々の姿を想像しながら、物語の続きを描き続けることにした。



第一の物語:『縮尺1/220の奇跡』終わり

 

第二の物語:『縮尺1/220の時空迷宮』


第1章:トンネルの先


 ある日、私はジオラマのトンネルに目を凝らした。小さな穴の向こうに、光が揺らめいているのが見えた。何かが呼んでいる気がして、私は懐中電灯を持ち出し、ジオラマの山に目を近づけた。


 「もしや、これは……?」


 懐中電灯の光をトンネルに差し込むと、奥で何かが輝いた。気がつくと、私はジオラマの中に立っていた。列車の音、川のせせらぎ、遠くの雑踏が聞こえる。私は縮尺1/220の世界に入り込んでいた。


 

第2章:過去への旅


 トンネルを抜けると、そこは昭和初期の町だった。蒸気機関車が煙を上げ、木造の家々が並ぶ。町の住人たちは私を不思議そうに見つめるが、やがて笑顔で迎えてくれた。


 私は町の喫茶店でコーヒーを飲みながら、時計を見つめた。しかし、時計の針は逆回転を続け、止まる気配がなかった。


 

第3章:未来への扉


 再びトンネルをくぐると、今度は未来の街に出た。高層ビルが立ち並び、空中を走る列車が光の軌跡を描く。街はまるでSF映画のようだった。


 私は未来の住人たちと話を交わすうちに、この世界が私の想像によって変化することに気づいた。心の奥に抱いた情景が、ジオラマの景色として現れるのだ。


 

最終章:現在への帰還


 私は再びトンネルをくぐり、自分の部屋へと戻ってきた。しかし、ジオラマの中では住人たちが動き続けているように見える。


 私は小さな街を眺めながら思う。このジオラマはただの模型ではなく、私自身の心象風景であり、過去と未来を繋ぐ装置なのかもしれないと。



第二の物語:『縮尺1/220の時空迷宮』終わり

 

第三の物語:『ジオラマ駅からの旅』


第1章:発車のベル


 その日、ジオラマの駅では発車ベルが鳴り響いていた。私はいつものように眺めているつもりだった。しかし、気がつくと駅のプラットフォームに立っていた。目の前には小さな蒸気機関車が煙を上げ、旅立ちの準備を整えている。


 「もうすぐ発車します。」

 車掌らしき人物が声をかける。


 私は何の迷いもなく列車に飛び乗った。


 

第2章:知らない景色


 列車はジオラマの街を抜け、トンネルへと吸い込まれていった。暗闇を抜けると、そこは見知らぬ町だった。レンガ造りの建物や石畳の道、見たこともない服を着た人々が行き交っている。


 「ここはどこですか?」

 私は隣に座る少年に尋ねる。


 「『歯車の街』さ。」少年は答える。「ここでは時間さえ歯車で回っているんだ。」


 

第3章:冒険の始まり


 私は少年とともに街を歩き回った。歯車で動く時計塔、空中に浮かぶ汽車、そして不思議な動物たちに出会うたびに胸が高鳴った。


 「これからどうするの?」少年が訊いた。


 「終点まで行くよ。」


 そう答えると、少年は微笑んだ。「それなら僕も一緒だ。」


 

最終章:帰還と新たな旅


 列車は再びトンネルを抜け、元のジオラマの駅に戻ってきた。しかし、私の心はもう元の場所には戻れない。


 私はジオラマを眺めながら、次の冒険に思いを馳せる。今度はどんな景色が待っているのだろうか、と。



第三の物語:『ジオラマ駅からの旅』終わり

 

あとがき


 ジオラマを作る楽しさ、眺める喜び、そして物語を紡ぐ面白さ。この三つが交わることで、私の小さな世界はさらに広がった。きっと、これからも新しい発見が待っているに違いない。とりあえず今は、この物語を存分に楽しもうと思う。


補足資料


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