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残り香

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 5 時間前
  • 読了時間: 1分

2025/4/25



 麺を茹でながら、麺つゆを温める。母のために少し長めに茹でるので、つゆはやがて煮詰まり、醤油の香ばしい匂いが部屋の隅々に漂いはじめる。食べている最中には気づかないが、食事を終え、食器を片づけ、一息ついた頃、ふいにその匂いが戻ってくる。醤油と出汁の香りが、どこかからふと立ちのぼるのだ。


 炒め物の日は、オリーブオイルにニンニクを落とした香りが、ずっとあとまで残っている。夕食がとっくに終わった頃、ふと台所の方からその香りがしてきて、まるで小さなイタリアンの厨房のような気分になる。


 珈琲豆を焙煎した日は、当然ながら焙煎中がいちばん香るのだが、不思議なことに、焙煎を終えたあとのロフトの片隅や階段の踊り場のようなところから、ふいに、焦げた珈琲の良い匂いがすることがある。


 食事の楽しみというのは、味わうことにあるのだろう。けれど、食べ終えたあとの「残り香」には、それとはまた違う、えも言われぬ余韻がある。

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