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煙突

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2月1日

2025/1/28

 我が家はログハウス。住宅地に建っている。可愛いブリキの煙突がにょっきり生えている。薪ストーブ用に作られたものだが、最近では薪を炊くこともなく、ただのオブジェになっている。けれど、時々その煙突から奇妙な音が聞こえることがある。「コソコソ」「ゴソゴソ」…小さな生き物が何かしている気配だ。


 ある日のこと、音があまりに気になって煙突をコンコンと叩いてみた。音は一旦止まるが、しばらくするとまた戻ってくる。「何かが巣でも作っているのかな?」と思うけれど、この煙突はまだ薪を炊く可能性がある。万が一巣を作られてしまうと、お互いに面倒なことになりそうだ。


 生き物は好きだ。でも、家の中で突然遭遇すると驚くことが多い。ハエや蚊、蜘蛛にゴキブリ、そして時にはハチやトンボ、コオロギたち。以前、ムカデを見つけた時は本当に驚いた。ノネズミやヤモリ、さらにはハクビシンまで入り込んだこともある。外を見れば蟻やダンゴムシ、ミミズ、蛇、様々な生き物が庭先にやってくる。けれど、家の中は別だ。住む場所をシェアするには勇気がいる。


 そんなある雨上がりの夜、煙突から新たな音が聞こえてきた。「コンコンコン」と規則的に何かが叩かれる音。それはこれまでの「コソコソ」や「ゴソゴソ」とは違う。まるで意図的に誰かが何かを知らせようとしているようなリズムだった。


 不安と好奇心が入り混じりながら、懐中電灯を手に私は煙突を覗いてみた。光を向けても奥は真っ暗で何も見えない。それでも、光の届かないはずのさらに奥から微かな光が漏れているのに気づく。「何だ…?」と声を出すと、その光が一瞬だけ揺れて音が止んだ。煙突の向こうに「何か」がいる。その感覚だけが、確かにそこにあった。


 翌朝、気になって仕方がなかった私は梯子を持ち出し、屋根に上って煙突の上部を確認することにした。慎重に覗き込むと、中には奇妙な物体が詰まっていた。それは金属のような光沢を持ち、自然界のどの生き物とも異なる幾何学模様の物体だった。


 手を伸ばして取り出してみると、それは小さな箱だった。どこから入ったのか、誰が置いたのか全く分からない。箱を開けると、中には古びた紙切れが一枚だけ入っていた。


「煙突の奥は、すべての帰り道。」


 その瞬間、世界が静止したような感覚に陥った。周囲の景色が変わり始め、住宅地だったはずの場所が鬱蒼とした森に姿を変え、見たこともない動物たちが家を囲んでいる。


 煙突の奥には、まだ私の知らない世界が広がっているらしい。そして、そこはただの出口でも入り口でもない。このログハウスが持つ役割を、私はまだ理解しきれていないようだ。



 

あとがき


 物語を紡ぐきっかけって、とても些細なことでいいのだと知った。手が滑って器を割ってしまった。そんな些細だがショッキングな出来事。一呼吸おいて、その時の気持ちや思ったことを言葉にして見ると、思っていた以上に、何かが出てくる。そして気がつくと素敵な短編が出来上がった。


 そんな、について綴っている時に、煙突でコソコソ音がする。を描きながら、煙突についても描き始めると、また一つ物語が紡がれたのである。物語が生まれるきっかけというのは、案外簡単で単純なんだと思う。書こう描こうとすると少しも描けないものだけど、些細なことをきっかけに物語は生まれるのである。


 そういえば前もそうだった。寒肥という出来事を綴ったら「現在過去未来」と「心」について想いが広がっていった。この時は物語にはしなかったが、そこでの駄文は、物語のきっかけになるものだった。


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