鈴木保奈美
- Napple
- 3 日前
- 読了時間: 2分
2025/9/1

鈴木保奈美さんのエッセイ『獅子座、A型、丙午』を読む。「あの本、読みました?」で彼女の本好きなことを知り、手に取ったのである。
初っ端から村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』の話。熱のこもった書きぶりで、思わず引き込まれた。僕もあの本には衝撃を受けたから、「あなたもですか」と嬉しくなった。ただ彼女はアネモネという人物に強く惹かれていたそうで、僕の記憶にはすっかり抜け落ちていた。
彼女は影の向きと時間から、東西南北を自然に把握する人である。出かけるときもまず自分の位置を確かめ、地図を眺め、目印になる建物を押さえる。東西南北が分かれば行く先も見えてくるという。失礼かもしれないが、その感じはどこか男っぽい。
母としての彼女は、お弁当作りに象徴されていた。コロナ禍のさなか、子どもの卒業とともに弁当を作らなくなったことに気づいた時の拍子抜け。その語り口は、母の目線と一人の人間の目線とを自然に行き来していて、読むこちらもあたたかな気持ちになる。
文章はどこまでも男前だが、時代の変化に戸惑ったり、嬉々として迎えたりするところは、まるで自分ごとのようで共感を覚える。彼女の生き生きした筆致を追ううちに、同世代であることを強く感じた。
本の話題は『コインロッカー・ベイビーズ』だけだったのが、少し惜しい。もう少し、読んできた本のことを聞いてみたかった気がする。
コメント