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執筆者の写真Napple

知らない自分

更新日:5月25日

2023/3/23


 夢の中で、一つの考えに囚われぐるぐるする事がある。無限ループに陥って抜け出すことの出来ない閉塞感で目が覚める。しばらくは興奮して目を閉じる事もできない。夢の中に現れた考えは、さして重要なことではない。むしろ瑣末なことなのに、なぜかそこへ集中してしまう。例えるなら、長い棒を持って細く曲がりくねった通路を抜けようとしているような感覚。集中するほど摩擦が生じ、頭の中がぐちゃぐちゃになり平静を保つ事ができなくなるのだが、ふっと前触れもなくその呪縛はどこかへ行ってしまう。


 もう一つ幼い頃から繰り返し訪れる奇妙な感覚がある。それは春になると訪れる。一種言いようのない不安が突然襲ってくるのだ。その感じはいつもはすっかり忘れている。ところがその感覚に襲われると、ああ、またやって来た。と感じる。とても嫌なのに馴染み深い奇妙な感覚。やっぱり寝ているときにやって来る。そっと引いていた線が突然画面いっぱいにぐちゃぐちゃに乱れてこんがらかった糸屑のようになって頭の中いっぱいに広がる。そしてどこかへ消えてしまう。


 その感覚は、自分の中に別物が忍び込んだような感じだったり、自分の中に見知らぬ自分を見るような感じだったり。それを見つけて慄いているけれど、拒否してはいない。あれは一体何なんだろう。自分の中に自分が知らない何かがあるような不思議な感覚。いつもは意識していないけれど、突然やって来る異質な感じ。そして、それが実は馴染み深い気もするから余計に戸惑う。


 幼い頃から繰り返し訪れ、還暦を過ぎてなお未解決なこの現象は、ただの知恵熱がもたらす幻影ではなさそうだ。幼い頃はただ恐れていたが、今は不思議な親近感がある。60数年の経験を経てようやく気がつき始めた、自分の中の自分だろうか。


 自分の中の自分とは、たとえばいい人になろうとして押し隠して来た悪き心の自分だろうか。半世紀が過ぎ、いい加減いい人になろうという気も薄れて、ようやく見つめる事ができるようになったのか。いいやそれは知らない自分ではない。見せなかっただけだ。では一体どんな自分なんだろう?


 今まで気が付かなかった自分に気づいた。これはちょっとした思いつきにすぎず、本当にそんな自分があるかどうかわらない、何となく、そこに、手を伸ばせば触れられそうなところに、そんな自分がいるような気がする。とても不思議でちょっとワクワクする。


 こんにちは、まだ知らない自分さん。

ムンク「叫び」Procreate5.3.4で描く


もしかすると、別の世界に繋がっているのかも知れない。


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