君におくる俺の作ったこういう形の手紙
君へ手紙を出そうと思いついてはや3週間、ようやく出来上がった。でもこれは手紙というようなものだろうか。気ままに書き綴った落書きだね。
二日酔い
ただいま俺は酔っ払っています。酔っ払った頭の中は君でいっぱいです。酔っ払って苦しんでいる俺を君が介抱してくれたら、どんなに幸せだろうかと想像します。あーしんどい。お酒なんて嫌いなのに、いつも飲まされてしまう、このバイトやめるべきかな。
「好きです。好きです。愛してます。」こんな歯の浮くような台詞は素面の時には言えそうもないので、酔っ払っている今思いっきり書いておきます。「好きだ。愛してる。いつまでもそばにいてほしい。何で君はいつも帰ってしまうんだ。帰るなよ。帰らないでくれよ。いつまでもそばにいろよ。一緒にいたいよ。」
ハハハハ、夏休みという事もあって毎晩1時までバイトをしてまして。毎日客に酒を飲まされ、仕事が上がってからも宴会で、酒を嫌ほど頂くのです。ビールとウイスキーと日本酒のちゃんぽんだから悪酔いばっかりで。下宿に帰ると、君の名前を叫んでおったわけです。
先輩と呼ばなくなった
あの日は夢の中の出来事のようだった。本当に現実にあった事か自信がないぐらい。目覚めたくない素敵な夢から目覚めてしまった時のような頼りない気がする。いつも君に会うたびに、時間の経過に腹を立てていた。
「もうすぐ 送らなくちゃいけないね」
「でも もう少しいいだろう」
「ああ もう帰してあげないと」
「もう少しいてくれよ」
「時間って、こんな時に限って早足になる」
「ああ 帰っちゃった・・・」
俺の腕の中にいつまでも君が消えないでいてくれたあの日は、非現実的で、頼りなくて、夢のようだった。後どれくらい待てば、あの夢をもう一度見ることができるだろう。もう二度と見ることのできない夢なのだろうか。でも、たまにしかないことだから素敵なわけで、いつもじゃありがたみがなくなってしまうかもしれない。素敵な夢をありがとう。
あの後君から来た手紙はよかった。文章にしろ何にしろ、初めて君に「あなた」などと言われた時は、舞い上がってしまった。「先輩」って呼ばれてる頃はつまんなく思いながら、いざ、何にも呼ばれなくなった頃は寂しかった。ずーっと呼んでくれないじゃないかと思っていたら「あなた」と来た。口で言われた時は、思わず「もう一度」と言いそうだ。「あなた」か、いいなー。
夢もまた楽し
3週間も君に会えないのは、本当に身体にこたえる。それでも、初めの一週間は、何となく持たせ、次の一週間は試験に追われてこれまた何とか持った。だけど、3週間目に突入するに至って、もうダメになった。全く元気が出てこない。もうすぐ満月だっていうのに。君から電話があった時、無理するんじゃなかった。一言「明日会おう」と言やあよかった。などと思っても後の祭り。せめて夢でぐらい君と会えないものかと思ってみても、なかなか出てこない。現実の君の方がよほど俺のいうことを聞いてくれる。もっとも、あまり寝ていないから、いざ寝ると熟睡してしまって、君も出番がないのかもしれない。ところで、君は今頃何を考えているだろう。俺と同じことを思っているのかな。そうだとしたら、夢の中の俺は、お呼びを感じリャ、すぐに出かけていくはずだ。それに比べて夢の中の君は何をしるんだ。と思っているとようやく君が夢に来てくれた。
あれはバイトに疲れて、酔いながら、雨漏れのする部屋に帰ってきた日だった。寝る前の気分のまま夢の世界に入り込んだ俺は、やっぱり酔いながら、バイト帰りの道をフラフラと下宿に向かって歩いていた。梅田の街並みとは違う街だけど、なぜかよく知っている街だ。ふと見ると、目の前を君が友人と楽しそうに歩いている。俺はフラフラとついてゆく。君は大きなデパートのような建物の中へ入って行き、最上階の銀行らしいところで、何か大切な預けものを取り出そうとするのだけれども、なぜかその銀行は、通帳と印鑑の代わりに、彼氏や彼女がいないとおろせないというケッタイなところで。困っている君は、フラフラついていって後ろでニヤけている俺に気がついた。「ああ よかったわ」と言いながら、俺を使って何やらを受け取るのだ。「さあ これでいいわ」と言って一階へ降りようとする頃から友人はいなくなっている。俺は相変わらずニヤニヤしながら、やっと会えたってすごく喜んでいる。君はニコッと笑うと、俺の腕に腕を回して、グッとしがみつくようにくっ付いてくる。その強引さに俺は大いに満足してよけいにニヤッとする。俺は一生懸命に君を見ようとした。君も俺を一生懸命見てる。すると君は、俺のほっぺたに突然キスをした。そのままほっぺたに唇の形にスポンと穴が開いてしまいそうなぐらい素敵なやつだ。それじゃ俺もって、君にキスをしようとしたのだけれど、如何せん酔っている俺は、君のほっぺたをべろりと舐めてしまって、ほっぺたに唾がべっとり。君は「いやーん」と言って手で拭った。冴えない夢だったが君のキスはいかしてた。目覚めてから、思わず鏡に頬を写したけれど穴は空いてなかった。
夢幻朝
周りは見渡す限り広大な碧い海であった。その果ては青い空に重なり全体を覆っている。その広大な海に浮く純白に輝く氷河の上に俺はいた。俺はどうやらその氷河の上に布団をひいて寝ているらしい。そばに君がいた。俺と君は激しく愛し合っていた。お互いが燃え上がる度に、海の中から巨大な2頭の巨獣が現れて炎のように渦巻き荒れ狂う。その鯨のような竜のような巨獣はどうやら黒く大きく荒れ狂っている方が俺らしくて、そばに寄り添い絡み合っている白い方が君であるようだった。俺と君が一つになる時、巨大な2頭の巨獣も重なり一つとなって、ますます大きくなり咆哮した。俺はその激しさ荒々しさゆえに、安らぎと喜びを全身で感じていた。何度目かに俺と君が熱く燃え上がった時、巨獣は現れなかった。一瞬静寂が俺と君を包み、いつの間にか俺たちの下にあった氷河は黒々とした大地へと変わり、今まで広がっていた海も荒野となっていた。君は目を閉じて眠っているようだ。君を見つめている俺の周りに、いつしか悪魔とも天使ともつかぬ大勢のものたちが現れ、俺を叱りつけたり、慰めたり、さとしたりしている。俺は突然全てを悟った。君が死ぬのだ。目を閉じて俺は耐えようとした。そうやって耐えることで君が死から救われるような気がしたのだ。苦悶の呻きが俺の体から発っせられている。深い悲しみが怒涛のように俺を押しつつみ耐えきれなくなった俺は君にしがみつき泣いた。喉から血が溢れた。俺の声は言葉にならず、悲しみの叫びとなった。「死ぬな、死なないでくれ!」俺の意識は暗黒に鎖された。
ふと気がつくと緑の中にいた。周りで大勢の人が拍手をしている。芝居は終わったのだ。そうだ君は死にはしない、あれは芝居だった。安堵の気持ちが込み上げてくる。よかった。ところが君が見当たらない、どこへ行ったのだろう。俺は立ち上がった。山奥のようでもあり、公園の芝生のようでもあるそこは、光に満ちている。きっと君も俺を探しているに違いない。早く見つけなくてはと、歩きはじめると。ようやく夢の世界にいることに気がついた。目を覚ませばきっと全てを忘れてしまうだろう。でも、このまま夢の世界から立ち去ってしまうのは不安すぎた。目覚める前に君を見つけなくては。そうやって夢を意識し目覚める事を恐れるほどに、現実の世界へ連れ戻され、あの巨獣たちの煌めきをふと意識した時本当に目覚めてしまった。目覚めた時、取り返しのない大切なものを無くしたように感じた。不思議なぐらい、夢の中での出来事を鮮明に思えていて、ドキドキした。
ジョギング
約束通り淀川へジョギングに行った。河口までたどり着いた時は日が暮れていた。山に限らず、自分の足で行くというのはいいもんだ。地図で測ったら約20kmの道のりを走っていた。どうりで足腰が痛いわけだ。今度は君と一緒に走りたい。淀川の堤防で見る夕日が大阪で一番いい。
君に伝えたいことがあって、手紙を書こうとしたら、こういうもんができあがった。書き始めてから時間が立ち、最初に伝えようと思っていた気持ちがなんだかわからなくなってしまった。でもせっかく作ったから君に送ることにしよう。
おわり
君に送る俺の作ったこういう形の手紙
著作者:NAPLIN CHAKAMIRE
発行者:怪人案単多裸亜
発行所:大阪市北区万歳町
手書所:シルバーランドサファイアの間
製本所:穴蔵喫茶なっぷりん
発行日:昭和54年10月15日
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