2024/12/16
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始まり
若い頃、私は「七難八苦を与えたまえ」と神社で願った。若さゆえの勇ましさと、何者かになりたいという焦燥が、その言葉を口に出させたのだと思う。神は実直だ。与えられた七難八苦は、私の人生を三度ずつ揺さぶり、三度ずつ試練を与え、三度ずつ答えを突きつけた。
第一章 三つの秘密結社
最初の「秘密結社」は幼い頃の遊び――『シャドー』。
夕暮れの校庭、友人と二人で地球防衛組織を立ち上げた。「宇宙人から地球を守る」という壮大な使命を掲げ、天体望遠鏡を覗き込む日々。しかし、空に宇宙人の影は見つからない。それでも夕焼けの向こうに「何か」を探していた。駄菓子屋で買い食いをしている時間の方が楽しかったのは、子供なりの「生きること」の答えを既に知っていたからかもしれない。
二つ目の「秘密結社」は高校時代の『I.F.S.A.(国際野糞協会)』。
名は滑稽だが、本人たちは至って真面目だった。「自然回帰」をテーマに掲げ、山道を歩き、焚き火を囲みながらルソーを気取る。しかし、ただ語るだけで何もせず、野糞ひとつしない私たちは、都市の子供のままだった。ある日友人が呟いた。「女の子がいれば楽しいのにな」その一言に、理想と現実の境目が透けて見えた。
三つ目の「秘密結社」は大学時代――『放浪社』。
ここには実働が伴った。お揃いの制服を作ったり、カブを改造し、エコランレースに出たりと、確かに「放浪」した。やがて、社会人になる頃、その夢は有限会社「放浪社」へと形を変えた。「夢を叶えるお手伝いをします」ホームページのトップに掲げたその言葉は、子供の頃の「シャドー」や「I.F.S.A.」のかけらが融合したものだった。三度目の組織にして、ようやく私は「地に足のついた夢」を知ったのだ。
第二章 三つの奇妙な経験
最初の奇妙な経験は、人生につまずいた頃に友人に誘われた「自己啓発セミナー」。
「心を開きましょう」という掛け声と共に、人は二人ずつ向かい合い、好意や嫌悪を剥き出しにする。友人が私を見て言った。「あなたが嫌いです」――頭を殴られたような衝撃だった。その直後、別の人が言う。「あなたが好きです」――温かい涙が溢れた。人はこんなにも脆く、不安定だ。だからこそ愛おしい。セミナーが終わった後も、その「好き」と「嫌い」が私の心の中で鳴り続けた。
二つ目は、病に倒れた頃、知人に誘われた「宗教的な集まり」。
祈りの中で教えられた言葉。「与えなさい、そうすれば救われます」。信じるほどに苦しくなり、財布は軽く、心は重くなっていく。それでも一つの真理は残った。「他者に与えることは、自分を生かすことだ」。後に私は、その意味を別の形で知ることになる。
三つ目の経験は、ある友人がふと教えてくれた「シンプルな気づき」。
彼は何気なく言った。「自分を大切にすることは、人を大切にすることだ」それは宗教でも啓発でもない、ただの優しい真理だった。「誰かが機嫌が悪くても、自分は引きずられないこと。」「人は思うほど他人を気にしていないこと。」「困った時は「ありがとう」と心で唱えること。」この三つの小さな約束が、私を生かし、他者を救う「道標」となった。
第三章 三つの愛
最初の愛は、大学時代の恋。
山で出会った彼女とは、夢を語り合った。七年の交際を経て、婚約した日の夜、彼女は静かに言った。「あなたとは結婚できません」山の稜線に彼女の背中が重なり、その輪郭はいつまでも私の心に焼き付いた。
二つ目の愛は、社会人としての妻。
十年共に暮らしたが、子供のいない日々がやがてすれ違いを生み、彼女は言った。「さようなら」。残された冷えた食卓には、彼女のいない時間が広がっていた。
三つ目の愛は、まだ始まっていない。
「自分を大切にすること」「人を大切にすること」。それを知った今の私なら、きっと三度目の正直を掴めるだろう。これから出会う誰かのために、私は少しだけ、明日が楽しみになっている。
終章 三度目の正直
再びあの神社に立ち、手を合わせる。「七難八苦をありがとうございました。もう結構です」かつての「シャドー」は夕焼けの空に消え、「I.F.S.A.」は風に散り、「放浪社」は夢を形にした。そして、奇妙な経験は私を揺さぶり、愛は三度目を迎えるために静かに待っている。人生は繰り返す――三度目にして、ようやく見つけた答えはこうだ。「愛しています」「ありがとう」たったそれだけの言葉の積み重ねが、生きることのカラクリだった。七転八倒して、ようやくここに辿り着いたのだから。
あとがき
これは物語のプロットだけど。プロットの方が物語の構造と意図がよくわかって面白い。いずれ別の形でこの物語は仕上がるかもしれない。
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