2024/12/28
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序章:反響
古びた喫茶店「1.9Lの魔法びん」に、今にも泣きそうな少年がひとり訪れた。窓際の席に座った彼は、ガラス越しに灰色の街並みを眺めながら、震える手でカップを握る。マスターが静かに声をかけた。「何か悩み事かい?」少年はかすかに頷き、ぽつりぽつりと語り始めた。「先生に間違っているって言われました。でも、僕は正しいと思ったんです。なのに……」言葉を詰まらせる少年を見守るマスターは、柔らかな声で言う。「その間違いは誰が決めたのかな?」少年は答えられず、俯いたまま黙り込んだ。
第一章:善悪の軌跡
少年の名は悠生(ゆうき)。彼は学校で『正義』についての討論会で発表した意見が先生に否定されたことに苦しんでいた。彼は戦争を止めるために武器を使うことは善か悪かと問うたが、先生は即座に「悪」だと断じたのだった。
「何が正しいのか……わからなくなりました。」
悠生は頭を抱えた。すると、店の奥から、謎めいた男が現れた。「彼はワーランブール。正義と悪の間を旅してきた者で、ここの居候だ。」とマスターが言うと、その男は悠生の目をまっすぐに見つめ、唐突に問いかける。
「善と悪はどこで分かれると思う?」
第二章:揺れる秤
ワーランブールは少年を問い詰めることなく、様々な逸話を語り始めた。
食糧を盗んだ男がいた。彼は家族を救うために盗んだのだが、店主はそれを許さなかった。医師が嘘をついて患者を安心させた。嘘は悪かもしれないが、患者は救われた。人々を守るために武器を持つ兵士。彼は敵にとっては悪だが、仲間にとっては英雄だ。
「正しいことをするためには間違いを犯すこともある。だが、それを正しいと信じるのは誰の役目だ?」
悠生は混乱しながらも、その問いに考え込む。
第三章:悠生の答え
悠生はやがて、ある答えにたどり着く。「正しいかどうかを決めるのは、自分自身なのかもしれません。でも、その答えが他の人を傷つけることもある。」ワーランブールは微笑んだ。「ならば、どうする?」「答えを出す前に、他の人の声も聞く。それでも決めなければならない時は、自分の心を信じる。」マスターがゆっくりと珈琲を差し出した。「答えは揺れるものさ。だからこそ、人は考え続けるんだ。」
終章:境界の先へ
悠生は喫茶店を出て、夕暮れに染まる街を歩いた。善と悪は簡単に決まるものではない。だからこそ、人は互いに話し合い、寄り添いながら答えを探していくのだと彼は思った。ワーランブールは背中越しに言葉を投げる。「曖昧な境界に立てる者こそが、人間なのさ。」
悠生は振り返らずに微笑んだ。
「善と悪」完
あとがき
善と悪について考えていた。それを整理するとこんな感じだ。
1. 善悪の曖昧さ
計算の正誤は明確だが、主義や主張の善悪は明瞭でない。「正しい=善」「間違い=悪」と単純には言えないが、感覚的には何かを善悪と感じる。
2. 間違いを嫌う心理
誰もが間違いたくない、正解を求めるのは何故か。自分が正しいことを証明したい欲求や、間違いを悪と感じる感覚がある。間違いを指摘されると反論したくなる。争いはここから始まるが、それが悪とは限らない。
3. 善悪と争いの関係
正しいことをしようとする人は、間違いを正したいと願う。しかし、悪を非難しすぎると攻撃に転じてしまい、その行為自体が善とは言えなくなる。善と悪は表裏一体であり、不確かなものかもしれない。
4. 善悪の変化と人間の内面
善悪は時代や文化によって変化し、人間が作り出した相対的な概念である。神や仏が善悪を定める存在ではないようだ。それでも人は、直感的に善悪を感じ取り、内なる心の声に従って生きている。
5. 結論:善悪は人間の心の中に存在するもの
善悪は絶対的ではなく、環境や時代の影響を受けて形作られる。それでも、人は心の中に善悪への基準や感覚を持っている。この感覚は完全に論理的には説明できず、人間の内面や直感に根ざしたものである。
これを元に出来上がったのがこの物語。
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