top of page

言わぬが花

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2024年12月13日

2024/11/29


「言わぬが花」とはよく言ったものである。ときに言葉は、人を慰めるどころか、かえって傷つける。いや、むしろ言わぬことで自らを救うこともあるのだと、私は思う。


 会社を辞めてもう二十年になる。それでも昔の仲間が連絡をくれるのはありがたいことだ。あの夜も、レースのチームが集まるというので顔を出した。久しぶりの再会に少し胸が高鳴ったが、実際に会ってみると、嬉しいような、気恥ずかしいような、そんな妙な感覚があった。皆の輪の中で静かにしているつもりだった。だが二次会の席で、つい調子に乗ってしまったのだ。


「あのアイデアを出したのは俺だった」などと、誰も聞きたくもないことを口にした。言った瞬間に、しまった、と思った。あれは仲間の功績であって、私一人の手柄ではない。それに、そんなことを今さら話してどうなるというのか。


 おそらく、二十年前に自負していた“中心的な存在”であった自分を、少しでも取り戻したかったのだろう。だが、私の言葉は空を切り、皆の反応も薄かった。その場の空気が少し冷えたように思えたのは、たぶん気のせいではない。


 家に帰り、「言わぬが花」という言葉を思い返した。人は、黙っていることで失うものもあるが、救われることのほうが多いのかもしれない。いまだに穴があったら入りたい気持ちだが、こうして一人、胸の中で反省している分には、誰にも迷惑をかけないだろう。それもまた「花」なのかもしれないと思う。

閲覧数:15回0件のコメント

最新記事

すべて表示
節分

節分

奏でる

アプリ

アプリ

Комментарии


bottom of page