2024/11/29
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「言わぬが花」とはよく言ったものである。ときに言葉は、人を慰めるどころか、かえって傷つける。いや、むしろ言わぬことで自らを救うこともあるのだと、私は思う。
会社を辞めてもう二十年になる。それでも昔の仲間が連絡をくれるのはありがたいことだ。あの夜も、レースのチームが集まるというので顔を出した。久しぶりの再会に少し胸が高鳴ったが、実際に会ってみると、嬉しいような、気恥ずかしいような、そんな妙な感覚があった。皆の輪の中で静かにしているつもりだった。だが二次会の席で、つい調子に乗ってしまったのだ。
「あのアイデアを出したのは俺だった」などと、誰も聞きたくもないことを口にした。言った瞬間に、しまった、と思った。あれは仲間の功績であって、私一人の手柄ではない。それに、そんなことを今さら話してどうなるというのか。
おそらく、二十年前に自負していた“中心的な存在”であった自分を、少しでも取り戻したかったのだろう。だが、私の言葉は空を切り、皆の反応も薄かった。その場の空気が少し冷えたように思えたのは、たぶん気のせいではない。
家に帰り、「言わぬが花」という言葉を思い返した。人は、黙っていることで失うものもあるが、救われることのほうが多いのかもしれない。いまだに穴があったら入りたい気持ちだが、こうして一人、胸の中で反省している分には、誰にも迷惑をかけないだろう。それもまた「花」なのかもしれないと思う。
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