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初めてのヴァイオリン

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:3 時間前

2025/2/21



 父が愛用したヴァイオリンは、チェコで作られ、もうすぐ100年を迎える楽器だ。じっくり観察すると、その形にはすべて理由があることに気づく。


 ヴァイオリンはギターよりも後に生まれた。ギターより小さく、ウクレレより大きい。木製で、指板と共鳴するボディを持つ点は共通している。しかし、決定的に異なるのは音の出し方だ。ギターやウクレレは指やピックで弦をはじいて音を出すが、その音はすぐに消えてしまう。そこで、持続的な音を生み出すために考案されたのが弓だ。


 弓を使うことによって、楽器の形にも変化が生まれた。弓を自由に動かせるようにボディの中央はくびれ、各弦を弾き分けやすいように弦はアーチ状に張られた。さらに、表板も同じように緩やかなアーチを描いている。そして、音の響きを最大限に生かすために、ヴァイオリンは肩と顎で支え、空中に浮いた状態で演奏するようになった。


 フレットをなくしたのは、音程を微細に調整できるようにするため。肩に乗せることで左手の可動域が広がり、高音も自在に操れる。特徴的な糸巻きのスクロールは、単なる装飾ではなく、適度な重さを持たせることで、顎と肩で楽器を挟んだときのバランスをとる役割を果たしている。こうして、ヴァイオリンは見た目の優雅さとは裏腹に、機能美に満ちた精緻な楽器へと進化した。


 しかし、優雅に見える演奏姿勢は、実際にはとても不自然だ。慣れなければ、長時間その姿勢を保つのは難しい。ギターやウクレレなら、誰でも簡単に音を鳴らすことができるが、ヴァイオリンはそうはいかない。初めて弾いたときの音は、まるでノコギリを擦るようだった。


 16世紀のイタリアで誕生し、ストラディバリウスのような名工たちが完成へと導いたヴァイオリン。その楽器が、多くの音楽とドラマを生み出してきたことを思うと、ただそこにあるだけで不思議と心が満たされる。父の手を離れ、今は静かに時を刻むヴァイオリン。使われてこその道具ではあるけれど、たとえ弾かなくても、この楽器がここにあることが、ただ嬉しい。


2025222ヴァイオリン

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