2025/2/18
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親指ピアノ(thumb piano)は、約3,000年前に誕生した民族楽器で、サハラ以南のアフリカ各地で見られる。もともとは「ムビラ(Mbira)」や「リケンベ(Likembe)」など、地域によって異なる名称で呼ばれ、木の板やヒョウタンの共鳴体に金属の板(リード)を取り付けたものだ。20世紀になると、音楽家ヒュー・トレイシーが「調律された音階を持つ楽器」に改良し、「カリンバ(Kalimba)」という名前で世界に広めた。
形状こそ似ているが、リケンベは「音階があるようでないような可変音階楽器」である。ずっとカリンバだと思っていたこの楽器が、実はリケンベだったと気づくまで、半世紀近くが過ぎてしまった。
手元のリケンベは、有り合わせの木片で作ったような素朴な箱に、釘を叩いて薄くしたリードを適当な長さに並べたものだ。共鳴用のホールらしき穴が数カ所開いているが、響きを意図した設計には見えない。リードには細く切った空き缶を巻き付け、弾いたときにビビり音が出るよう工夫されている。箱には焼きごてで刻んだようなデザインが施され、すべてに野趣がある。リードを固定する金具を打ち込む際に板が割れたようだが、かえって音に独特の深みを与えているのかもしれない。
リードを順に弾いても、馴染みのある音階は聞こえてこない。長さの違うリードが並んでいるのに、よく似た音がするものもある。まさに「音階があるようでないような可変音階楽器」だ。そのせいもあり、意図的に旋律を奏でるよりも、気の向くままに好きなリードを弾いて楽しむのが、この楽器にはよく似合う。
カリンバとは一味異なる不規則な響き。だからこそ、このリケンベは、思いを音にする楽器だ。
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