2025/2/21
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静かな雨の降る午後、喫茶店「1.9Lの魔法びん」には、低く響く柱時計の音とコーヒーの香りが満ちていた。窓際の席では、陽翔(はると)と彩音(あやね)が向かい合い、それぞれ手元のカップを見つめていた。
「結局さ、量子コンピュータってどこまで進んでるんだろうな」
陽翔がぼんやりと呟くと、彩音がスプーンをゆっくり回しながら答えた。
「オーストリアの研究チームが、超伝導量子ビットの状態を光信号に変換する技術を発表したらしいよ。東京大学の研究も、光を使った量子コンピュータを高性能化する技術を開発してるって」
「光か。光の速さはこの宇宙で一番速い。でも、俺たちの頭の中で考えるスピードは、光より速いのかな」
「思考は光より速い、か……でも、量子の世界では、情報が瞬時に伝わる現象もあるよね。エンタングルメントとか」
陽翔はカップの縁を指でなぞりながら考え込む。
「つまり、未来のコンピュータは、光を使ってめちゃくちゃ速く計算できるってことか?」
「そうだね。でも、まだ課題は多いよ。今の超伝導量子コンピュータは冷却が必要だし、光量子コンピュータは光子を制御するのが難しい。どちらが先に実用化されるか……もしかしたら両方が融合するかもね」
陽翔は少しだけ口元をゆるめると、カップを傾けた。
「そういうの、まるでこの店みたいだな」
「え?」
「だってさ、この喫茶店は時間が止まったみたいな場所だけど、話す内容は最先端じゃん。未来のことを話しながら、過去の雰囲気に包まれてる」
マスターがカウンターの奥からクスッと笑った。
「君たちが光の話をしてくれるおかげで、この店の白熱電球も誇らしげだね」
窓の外の雨粒が、街灯の光を受けてキラリと輝いた。まるで、量子の世界から漏れ出した小さな奇跡のように。
「量子コンピューター2」了
あとがき
東京大学のアサバナント・ワリット助教と古沢明教授らの研究(光を使う量子コンピューターの高性能化)と、ISTA(オーストリア科学技術研究所)の研究(超伝導量子ビットの完全光学的読み出し)は、どちらも光を利用して量子コンピュータのスケーラビリティや性能を向上させるという点で関連している。
共通点
光を介した量子情報処理の向上
ISTAの研究は、超伝導量子ビットを光信号に変換し、長距離伝送や大規模化を可能にする技術を開発した。
一方、東京大学の研究は、光を直接用いた量子コンピューターの高性能化を目指している。
量子コンピュータの大規模化に貢献
ISTAの技術は、現在の超伝導方式の量子コンピュータのスケールアップに役立つと期待されている。
東京大学の研究も、光を使う量子コンピュータの拡張性を向上させるものであり、いずれも実用的な大規模量子計算の実現に向けた研究。
相違点
ISTAの研究は「超伝導量子ビットと光のハイブリッド技術」であり、既存の超伝導量子コンピュータのスケーラビリティを改善するアプローチ。
東京大学の研究は「完全に光を用いる量子コンピュータ」の高性能化であり、より根本的に超伝導方式とは異なるアーキテクチャを追求している。
補完的な関係
この2つの研究は、競合するというよりも補完的な技術。
ISTAの技術が進化すれば、超伝導方式の量子コンピュータと光量子コンピュータのハイブリッド化が可能になり、相互接続が容易になる。
一方で、東京大学の技術が進化すれば、そもそも超伝導ビットを使わない純粋な光量子コンピュータが実現し、エネルギー効率や温度管理の面で優位性を持つ可能性がある。
結論
この2つの研究は、量子コンピュータの未来に向けた「異なるアプローチ」だが、どちらも光を活用することで「量子コンピュータの大規模化・実用化」を目指している点で関連している。最終的には、両技術が融合する可能性も考えられる。
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