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量子

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2024年12月30日

2024/12/30

あやふやな世界の粒子たち


 1.9Lの魔法びんの店内には、白熱電球の柔らかな灯りが揺らめいていた。壁掛け時計は3時を少し過ぎたところで止まっている。蒼真はいつもの窓際に座り、ドライフラワーを指で弄びながら、コーヒーの香りに包まれていた。


「量子って、結局なんなんだ?」ふいに蒼真が口を開いた。向かいには花乃が座っている。彼女はカップを傾けながら微笑んだ。「また難しいこと考えてるのね。でも量子なんて見えない世界の話じゃない?」「いや、そう思っていたけど、最近その見えない世界に僕たちが支配されている気がしてきたんだ。」


 蒼真はポケットから小さなガラス球を取り出した。まるで光を閉じ込めたかのように輝くそれを机の上に置いた。「この球を見ていない間、これがどこにあるか本当にわかると思うか?」「そりゃ、ここにあるでしょ?」花乃が笑いながら答えたが、蒼真は真剣な目で続けた。「それは僕たちが“見ている”からそう言えるだけかもしれない。量子の世界では、見るまで物がそこにあるかどうかすら確定しないんだ。」「そんな馬鹿な話がある?」花乃は眉をひそめた。「アインシュタインも同じことを思ったよ。でもね、実験が証明してしまった。量子は観測されることで初めて形を成す。それだけじゃない。量子もつれという現象では、二つの粒子が離れていても互いに瞬時に影響し合うんだ。」


 花乃はコーヒーを置き、ガラス球をじっと見つめた。「でもそれって、つまりこの世界は……?」「見た時だけ存在する、あやふやなものなんだ。」蒼真は言った。沈黙が流れた。柱時計の秒針がかすかに動く音がしたような気がした。「じゃあ、私たちもあやふやなの?」「もしかしたらね。」蒼真は微笑んだ。「でも、それなら僕は今ここで君を見ている。だから確かに存在してる。」


 その時、マスターが静かに近づいてきて、二人の前に新しいコーヒーを置いた。「量子もつれって面白いよな。」マスターがぽつりと言った。「繋がっているのに確かめないと見えない。でもそれは、誰かが見ることでちゃんと繋がるってことだ。」花乃はふっと肩の力を抜いた。「そう考えると、少し安心するかも。」蒼真はガラス球を握りしめた。「世界はあやふやだけど、確かめ続ければ、ちゃんと存在してくれる。」


 店内に静かな安心感が満ちた。ドライフラワーが優しく揺れ、二人の間にあやふやな何かが確かに生まれていた。



「量子もつれ」完

 

あとがきに変えて


 量子とは、粒が見えていない時は波のように振る舞い観測した時だけ粒として現れると考えられている。つまり、「見ていない間は何が起きているかわからない。見た時だけ実態を表す。」というのだ。こんな不確かな事があるか。物体がどこにあるか明確にする事ができるはずだとアインシュタインは考え、波動方程式に欠陥があると指摘した。それが量子もつれだった。アインシュタインの言うことの方がもっともに思える。ところが、観測によって量子もつれは現実であることが実証され、2022年アスペ、クラウザー、ツァイリンガーの3氏はノーベル物理学賞を受賞。「この世界は見た時にしか存在しないあやふやなもの」というとんでもない事実が明らかになった。現に量子コンピューターまで作られるようになっている。しかし現象は確認されたが、どうしてそう言うことになるかはわかっていない。まさに我々は何ともあやふやな世界に生きていることになる。


量子力学における不確実性と量子もつれの整理


1. 波と粒の二重性

量子は観測されていない時は波の性質を持ち、観測された瞬間に粒としての性質を示す。これは「見るまで実態が確定しない」という性質を意味する。


2. アインシュタインの異議

アインシュタインはこの考えを疑い、量子の挙動は観測前から決まっているはずだと主張。彼は波動方程式に欠陥があるとし、量子もつれを「不完全さの証拠」と考えた。


3. 量子もつれの実証

実験によって量子もつれは現実であると確認された。もつれた粒子は、互いに瞬時に影響し合う性質を持つ。


4. 世界のあやふやさ

この結果、「世界は見た時にのみ存在する」という概念が受け入れられるようになった。量子コンピューターの実現は、この量子の性質を応用したもの。


5. 未解明の謎

現象は確認されたものの、「なぜ」こうなるのかは依然として不明。

我々の生きる世界は、根本的にあやふやで不可解なものだと言える。 



 何度読み返しても奇妙で狐に摘まれたような気持ちになる。この気持ちを物語にしたのが先の「あやふやな世界の粒子たち」である。

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