2025/1/26
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喫茶店「1.9Lの魔法びん」は、不思議と人の心を映し出す場所だった。そこに集うのは、先輩、後輩、そして同期。彼らの間に流れる感情は、それぞれ違うけれど、どこかでつながっていた。
第一章:先輩の視点
律人(りつと)はこの店で長い時間を過ごしてきた。マスターとの関係は、もう友達と言ってもおかしくないくらい打ち解けている。それでも、律人は心のどこかで、マスターを「先輩」として頼っている自分がいることに気づいていた。
ある日、律人が店でコーヒーを飲んでいると、新人の陽翔(はると)が店にやってきた。陽翔は律人の会社で働く後輩で、まだまだ右も左もわからない様子だ。「律人さん、これ、またやり直しを食らっちゃいまして……」と、陽翔は頭をかきながらぼやく。「またかよ。お前、事前にもっと準備しろって言っただろ?」律人は少し厳しい口調で応じたが、その目は陽翔を気遣っていた。
律人は思う。後輩に対して、どうしても助けたいという感情が湧いてしまうのは何故だろう。陽翔は甘えてくるけれど、それを嫌だと思ったことは一度もない。むしろ、その甘えに応えられる自分でありたいとさえ思うのだった。
マスターに話すと、彼は優しく微笑んだ。「律人くん、それが先輩ってもんだよ。自分も若い頃、甘えさせてもらった分、次の誰かに返したいって思うんじゃないかな。」
第二章:同期の絆
その夜、蒼真(そうま)と葉月(はづき)が喫茶店にやってきた。二人は学生時代からの同期で、今もたまに顔を合わせている。律人は二人を横目に見ながら、少し興味深そうに耳を傾けていた。
「お前、またやらかしたんだろ?」蒼真が辛辣な口調で葉月に言う。「そうだけどさ、部長に言われた通りやり直したら、案外いい感じになったんだよ。」葉月が苦笑しながら答えると、蒼真は肩をすくめた。「だから俺が最初から言ってただろ? 準備が足りねえって。」「うるさいなあ。蒼真ってほんと、いちいち厳しいんだから。」
二人のやり取りを見ながら、律人はふと考えた。同期って不思議だ。先輩や後輩とは違って、どちらかが一方的に甘えたり助けたりする関係ではない。容赦なく厳しいことも言い合えるし、それでも決して関係が崩れることはない。そこには絶対的な信頼があるからだ。
蒼真がふと律人に目を向け、「律人さんって、後輩には優しいんですね」と笑った。律人は少し驚きながら、「そうか? 同期だって十分気を使うだろ」と返すと、蒼真はすかさず言った。「いや、俺たち同期は気なんて使わないですよ。遠慮なく言い合えるのがいいところなんですから。」葉月も頷きながら、「その代わり、信頼してるから言えるっていうのもあるけど」と付け加えた。
第三章:それぞれの立場から見えるもの
閉店間際、律人は陽翔に言葉をかけた。「お前も、そのうち後輩ができるだろう。その時にどう思うか、楽しみだな。」陽翔は目を丸くして、「僕が先輩になるなんて、想像もつかないです」と笑った。その様子を見て、蒼真は横から口を挟む。「陽翔みたいな奴は、案外いい先輩になるかもしれないですよ。大事なのは、相手とどれだけ向き合えるかですから。」律人はその言葉に頷き、マスターの言葉を思い出した。「人との関係は全部、支え合うためにあるんだよ。」
エピローグ
「1.9Lの魔法びん」を出ていくそれぞれの背中を、マスターは静かに見送る。先輩と後輩、同期という違う立場を超えて、人々が支え合いながら成長していく姿を見て、彼はただ静かに時計の針を眺めていた。
あとがき
友について考えていた。そこから、取り止めもない物語の形の独白のようなものが出来上がった。 少し楽観的すぎるかもしれない。現実の友人関係や人と人との距離感は、もっと複雑で、時に厄介だ。それに比べて、この物語はあまりに上っ面で、きれいごとでまとめてしまった気もする。
それでも、まずはこういうこともあると思う。理想や希望のような形を先に書き留めておくことで、後からもっと深い何かに気づけるかもしれない。次は、もっと内面に踏み込んで、人と人との間にある「ズレ」や「傷つけ合い」も描いてみたい。けれど、それはまた、いずれそのうち出てくるだろう。
今はただ、この穏やかで温かな物語を、ひとつの通過点として。
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