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道草

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 4月19日
  • 読了時間: 1分

更新日:4月27日

2025/4/19



 まっすぐ歩こうと思っていた。脇見をせず、寄り道もせず、遠回りはしないつもりだった。けれど、あるとき、足が止まった。すれ違った犬。ふと目に留まった看板の文字。どうしても気になって、脇道に入った。


 そこには、知らなかった景色が広がっていた。


 道草というのは、たいてい計画の外にある。だから、思いがけない喜びに出会うこともあれば、傷ついたり、立ちすくんだりすることもある。


 行き止まりに突き当たったり、戻れない場所まで来てしまったり──それでも、不思議と後悔はない。


 むしろ、そんな時間ばかりが、心に深く残っている。


 いつの間にか、寄り道が日常に入り込み、まっすぐだと思っていた道も、実は曲がりくねっていたことに気がついた。


 道草も、本道も、もともとはどこにもなかったのだ。ただ、歩いた跡が、ふりかえれば道になっていた。


 幼いころ──学校の帰り道、「寄り道しちゃいけないよ」と大人に言われた。それでも、夕暮れの匂いのなかで、道端の草や、川のきらめきに心を奪われた。


 あのとき、確かに知っていたのかもしれない。道草のなかにこそ、生きる悦びが隠れていることを。

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