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記憶のにおい

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 5 日前
  • 読了時間: 1分

更新日:2 日前

2025/4/19



 祖母の家は、どこか古びた香りがした。線香の香り、土壁とカビのような匂い。それらが混じって、私には「懐かしい匂い」だった。縁側から部屋に入ると、部屋は暗く湿っている。奥の土間の薄暗いお勝手から、鼻先をくすぐるかすかな出汁の匂いが漂ってくる。


 その匂いと一緒に、必ず思い出す場面がある。狭い板張りの間に、いとこたちが集まっている。みんなで見た「ウルトラQ」。白黒のテレビだった。何かが現れて、何かが去っていく。子供たちはじっとそれを見ていて、祖母はお勝手で何かを炊いていた。


 匂いと記憶は、どうしてこんなにも強く結びついているのだろう。祖母のあの出汁の香りを嗅ぐたびに、私はその頃に戻る。あの頃の板の間の感触まで、指先に蘇るようだ。たぶん、忘れないのだろう。思い出そうとしなくても、あの匂いがふとしたときに、私を昔へ連れていってくれる。


 全く関係のないはずの匂いと映像が、いつしか一つの記憶として溶け合っている。それが不思議でもあり、ちょっと嬉しい。記憶のにおいは、時間の中にこっそり隠れていて、私にだけそっと語りかけてくるのだ。

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