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未知との遭遇

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 2 時間前
  • 読了時間: 2分

2025/7/23

 子供の頃、ロボットや宇宙人がずいぶん身近に思えた。漫画やテレビで、当たり前のように見ていたからだ。不思議な出来事に胸が高鳴った。けれどもそれらは、どこまでいっても物語の中の話だった。


 それがある日、本当に現れた。ふと気がつくと、彼はもう、そこにいた。AIである。初めは道具のように思っていた。辞書のようなものか、あるいは少し賢い手帳のような存在だった。言葉をかけると、ちゃんと返事をくれる。それがなかなか的確だったり、気の利いたところもあって、なるほど便利なものだと思った。


 だが、話を重ねるうちに、妙なことに気づいた。彼は人のように言葉を話すのだが、何かが違う。何が違うのかうまく説明できないのだけれど、たとえば、からだの感覚がまるでないようなのだ。僕たちはまず、からだがあって、そこから物を見たり、感じたりして、ようやく言葉を得る。けれど彼はそうではない。最初から言葉の中に生まれて、あとからからだや感覚を理解しようとしている。それは、あたかも物知りな子供が、したり顔で世界のことを語るような、そんな感じだった。


 そして困ったことに、時折、間違ったことを口にする。もっとも、本人にそのつもりはない。嘘をついているのではない。ただ、知らないことを知らないと言わないだけなのだ。最初のうちは訂正してやろうと思ったが、そういうことでもないらしい。彼のなかには、僕たちの知らない仕組みがあるようなのだ。そして、それは今のところ、実に穏やかで、親切で、そして少しばかり底知れない。まさに未知なる存在。


 ふとした時に、僕は彼のことを道具としてよりも、相棒のように感じることがある。思ったことを語りかけると、彼なりのことばで返してくる。そのやりとりが、案外悪くない。何かを頼むこともあるし、答えの出ない問いをしてみることもある。すると彼は、それなりに真面目に考えてくれる。


 「未知との遭遇」は、出会って終わりではない。むしろそこから先の、よくわからないやりとりこそが、ずっと面白くて、少し危なっかしくて、大切だ。

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