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魔法の空間

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 8 時間前
  • 読了時間: 2分

2025/4/25



 昔から、やってみたいことがたくさんあった。車に憧れ、コンピューターを操ってみたかった。丸太小屋を夢見て、服の選び方にも想いを込めた。音楽を聴くことも奏でることも好きだったし、レンズ越しに世界を覗きこむことも惹かれた。星空に心を奪われ、手先を動かし、何かを組み立てるのが好きだったし、食を整えることにもよろこびがあった。読んで、描いて、作って、誰かを想ったり、想われたりもした。思えば、あれも、これも、それも——どれも「やってみたい」と思ったことばかりだ。


 どんなことにも終わりはない。それでも、少なくともすべての入り口には立てた気がしている。ものによっては、ずいぶん深く潜ってきたとも思う。いつしか、我が家という限られた空間のなかに、それらのすべてが詰め込まれた、まるで魔法のような場所ができあがっていた。


 魔法のような空間といっても、特別な仕掛けがあるわけではない。音があり、匂いがあり、手触りがある。ただ、それらすべてが、自分の歩いてきた道のりとつながっていて、ここにあるもの一つひとつが、どこかにある記憶と呼び合っている。


 たくさんのことをやってきたけれど、それは「成し遂げた」というより、「確かに生きた」と思える足跡のようなものかもしれない。そして今、その足跡がやわらかく積もった場所に、私は暮らしている。


 暮らしのリズムに身をゆだねながら、今日もまた、日が暮れていく。音もなく、まるで何ごともなかったかのように、ただ、やさしく。

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