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星を食うものたち

執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2024年11月29日

2024/11/27



第一章:希望の船出


 宇宙船「ワーランブール」が新天地アルカディアに到着した瞬間、船内には歓声が響き渡った。透明な湖が輝き、遠くの山々が緑に覆われたその景色は、かつて地球が持っていた豊かな自然そのものだった。花乃博士は、コクピットの窓越しにその光景を見つめながら小さく息をついた。これが夢だった。環境を破壊し尽くした地球を後にし、新たな未来を築くために飛び立った時の情熱が蘇る。


 「ここが新しい地球になる。そう信じてるわ。」

花乃の言葉に、同僚たちは力強くうなずいた。彼女たちが目指すのは、単なる移住ではない。地球での過ちを繰り返さず、星と共に生きる方法を探ることだった。


 最初の数年、アルカディアでの生活は順調そのものだった。地球から持ち込んだ植物が星の土壌に根付く様子に科学者たちは歓喜し、持ち込まれた技術が生活を支えた。食料も十分、住環境も快適。やがてアルカディアは「人類の第二の故郷」と呼ばれるようになった。


 

第二章:荒廃の連鎖


 しかし、それは長くは続かなかった。

10年が経つ頃、アルカディアに異変が起き始めた。空気が妙に乾燥し、湖の水位が下がり始めたのだ。最初は些細な変化だったが、やがて現地の植物が枯れ、地球から移植した農作物すら実らなくなる。


 「こんなはずじゃなかった……。」

花乃は日々届くデータを確認しながら呟いた。アルカディアの生態系が壊れ始めていた。原因は明白だった。地球から持ち込んだ資源を過剰に消費し、この星の自然を犠牲にして成り立つ生活。それがかつての地球と同じ過ちを繰り返していることに気づいた時、彼女の心に冷たい現実が突き刺さった。


 数年後、アルカディアは人類の居住に適さない星となり果てた。湖は干上がり、土壌は作物を拒む砂漠と化した。人々は新たな星を目指して船を飛ばした。次の目的地は「ネレウス」だった。


 

第三章:星の叫び


 ネレウスは地球にも似た湿潤な気候を持つ星だった。アルカディアの教訓を生かすべく、移民団は慎重に暮らし始めたが、またしても同じ問題が発生した。持ち込んだ農業が星の生態系を侵食し、植生が壊れていくのだ。


 その頃から花乃は奇妙な夢を見るようになった。深い闇の中から声が響いてくる。

「奪うな。与えよ。お前たちが触れるものは滅びる。」

目を覚ました花乃は汗で体が濡れていた。最初は幻聴だと思っていたが、その夢は繰り返され、星の異変と連動しているように感じられるようになった。


 ある日、彼女はネレウスの大地に立ち、そこで生きる植物や動物たちの声に耳を傾けた。星が語りかけている。

「お前たちは貧乏神だ。この星に何も残さず、奪うだけで立ち去るのか?」


 

第四章:再生への選択


 花乃は移民団に訴えた。「このままでは私たちは宇宙全体を荒廃させてしまう。過ちを止めるために行動を変えなければならない。」

だが、彼女の提案に反対する者も多かった。資源を採掘しなければ生き残れないと主張する拡張派と、星と共存する方法を模索する再生派の間で対立が激化した。


 花乃たち再生派は、星の生態系を守りながら生活する実験を始めた。地球の技術を使わず、その星が本来持つ資源の範囲内で生きる方法だ。最初は困難を極めたが、徐々に星の生命が応え始めた。初めて地球外の果実が実を結び、土壌が再び呼吸を始めたのだ。


 

第五章:新たな道へ


 再生派の活動が実を結び、人類が共存できる星が誕生したことをきっかけに、花乃は再び移民団のリーダーとなる。かつて奪うだけだった人類が、与えることで豊かさを共有する存在へと変わり始めた。


 星々を巡りながら、花乃は空を見上げて思う。

「進歩とは奪うことではなく、与えることだった。」

そして彼女は微笑みながら、新たな旅立ちの準備を始めるのだった。


「星を食うものたち」完



 

補足


 これはアイデア「貧乏神」を膨らましたもの。

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