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忘れることについて

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 5 日前
  • 読了時間: 1分

更新日:4 日前

2025/4/19



 最近、とっさに名前が出てこないことが増えた。人の名前、本の題、映画の俳優、そういうものが、するりと抜け落ちて、指の間から砂のようにこぼれていく。以前の自分だったら、焦ったかもしれない。でも、いまはもう、そんなことがあっても、あまり驚かなくなった。


 あるとき、ふと、こんな言葉が浮かんだのだ「それは失われたのではなく、しまわれたのかもしれない」と。


 しまわれた記憶は、ただ、取り出す鍵をどこかに置き忘れてしまっているだけ。ある日、誰かとの会話の拍子に、あるいは風の匂いや昔の音楽に触れて、ぱたんと開く引き出しがある。記憶は、時に思いがけない道を通って戻ってくる。


 それに、忘れるということは、少しだけ自分を軽くしてくれる働きもあるように思う。重たく抱えすぎた記憶を、そっと棚に戻して、余白を心に作る。失うのではなく、手放す。しばしそのままにしておく。忘れるとは、そんな優しさかもしれない。


 そう考えるようになってから、思い出せないことも、なんだか悪くないと思えるようになった。それでも、忘れていたことをふいに思い出すときの、あの胸の奥がぱっと明るくなるような感覚は、やっぱりいいものだ。

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