宇宙ボイド
- Napple
- 3月5日
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2025/3/5

薄暗い店内に、白熱電球のやわらかな灯りが揺れている。柱時計の音が静かに響くなか、いつもの常連たちがコーヒーカップを手に、科学談義に花を咲かせていた。
「ねえ、宇宙ボイドって聞いたことある?」
そう切り出したのは、彩音だった。彼女はカップを傾けながら、窓の外をぼんやりと見つめている。
「ボイド? なんだか空っぽな感じの名前だな」と陽翔が首をかしげる。
「実際、空っぽに近いんだよ」と蒼真が応じる。「宇宙ボイドは、銀河がほとんどない巨大な空間のこと。宇宙には銀河が集まって網の目みたいな構造をしている部分があるんだけど、その間にぽっかりと穴が開いたみたいな領域があるんだ」
「宇宙の泡構造、ってやつね?」花乃が口を挟む。「シャボン玉を並べると、その境界に膜ができるでしょ? まさにあんな感じ。銀河は泡の壁の部分に集まって、ボイドの中はほとんど何もないの」
「おお、なんとなくイメージできるぞ」陽翔がテーブルの上に指で円を描く。「でも、どうしてそんな空白ができるんだ?」
「宇宙が生まれて膨張するとき、物質は重力で引き寄せられて、密度の高いところにどんどん集まっていったんだ。その結果、物質が少ないところはますますスカスカになって、ボイドができたってわけさ」
「へえ、それってダークマターとかダークエネルギーとも関係ある?」悠生が興味深そうに身を乗り出す。
「まさにそこが面白いところ!」蒼真が指を立てる。「ボイドの中って、普通の物質が少ない分、ダークマターの影響を直接探りやすいんだ。もしボイドの中で時間の進み方が違っていたり、重力の働きが変わっていたりしたら、未知の力が作用している証拠になるかもしれない」
「そう考えると、ボイドってただの空洞じゃなくて、宇宙の謎を解く鍵になる場所なのかもね」と凪紗が微笑む。「むしろ、何もないからこそ、いろんなことがわかるっていうか」
「なんか、哲学的だな」と陽翔がぼやく。「何もないことが意味を持つって、不思議だよな」
「まあ、コーヒーもそういうものさ」マスターが静かに言った。「何もないカップの中に満たされるからこそ、一杯の価値がある」
「……深いな」
コーヒーの香りが広がる店内で、宇宙の空白についての話はしばらく続いた。もしかすると、この店の静けさもまた、ボイドのように何かを引き寄せる場所なのかもしれない。
「宇宙ボイド」了
あとがき
宇宙ボイドってなんだ?と思ってできた物語
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