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もしかもしか

執筆者の写真: NappleNapple

2024/12/7



第一話:モシカモシカ、もしもを背負う


 とある静かな湖のほとり、平凡な鴨が一羽、のんびりと水辺を歩いていた。その鴨の名前は**モー**。特別な力もなく、目立つこともない彼は、日々をただ静かに過ごしていた。けれども、この世界では「平凡」という言葉が通じるのはほんの一瞬だ。  そうだこの世界こそ、もしもの世界だ。その日、空が不気味な赤に染まると共に、湖の向こう岸から恐ろしい魔物が現れた。その巨体は水を割り、モーに向かって突進してくる。動けないモー。だがその瞬間、眩い光が差し込み、一頭の大きな鹿が姿を現した。「何を怯えることがある?可能性は恐怖を超えるものだ。」その鹿の王はモーを守りながら魔物を一蹴した。そして静かにモーに向き合い、こう言った。「お前にはまだ気づいていない可能性がある。だが、この角がそれを引き出すだろう。」そう言うと鹿の王は自らの角の一部をモーに授けた。その角がモーの頭に吸い込まれると、彼は心に力を感じた。同時に、自分の名前が「モー」ではもうないことを悟る。「もしも、自分がもっと強くなれるなら――。そうだ、これからは**モシカモシカ**だ!」平凡な鴨が「もしも」を背負い、冒険を始めることとなった瞬間だった。



 

第二話:羽の物語


 モシカモシカは旅の途中で不思議な森に迷い込む。そこでは、木々の間を悠々と飛び回るゴリラがいた。黒い体毛の中から伸びた耳の羽が、小さくも力強く羽ばたき、彼を空中に浮かせている。その名も**トリゴリー**。モシカモシカが驚いて見つめていると、トリゴリーは宙を舞いながら軽々と話し始めた。「お前も変わり者か?ここでは“普通”なんてありゃしないさ。俺なんてゴリーだったのに、突然耳から羽が生えて、こんな風に飛べるようになったんだ。」モシカモシカはその飛ぶ姿に目を輝かせる。「すごい!もしもって、本当に何でもできる力なんだな!」トリゴリーはその言葉に微笑むと、「もしもの力は使い道次第だ。お前、俺と一緒にもっと可能性を探してみる気はないか?」と仲間になることを提案する。旅は続き、今度は月明かりが照らす平原で一匹の豚と出会う。彼の名前は**トリブリオン**。耳に白い羽を持ち、魔法を操るその姿はどこか神秘的だ。「お前がモシカモシカか?」トリブリオンは落ち着いた声で語りかけた。「おかしな話だが、俺の耳に羽が生えたその夜、鹿の王の夢を見た。俺の魔法が、誰かの未来を開くために使われると言っていた。」モシカモシカはその言葉に共鳴し、「もしも」という力が導く縁の不思議さを感じた。こうしてトリブリオンもまた、彼らの冒険に加わった。



 

第三話:ナニキャットの秘密


 森を抜けた先で、モシカモシカたちは古びた遺跡にたどり着いた。その遺跡を影のように歩き回る奇妙な存在がいた。それが**ナニキャット**だ。足の代わりに尻尾だけで器用に立ち回り、静かに彼らを見つめるその猫。「ナニをしている?」トリブリオンが問いかけると、ナニキャットはくすっと笑った。「ナニをしているって?さあね、私はただ“ここ”にいるだけよ。でもあなたたちが求めているものは分かる。もしも、この遺跡の奥に秘密があるとしたら、あなたたちはどこまで進む?」ナニキャットの問いかけに  「もしも、が君の中にどうあるのか、知りたいな!」  とモシカモシカは問いで答えた。ナニキャットは尻尾で回りながら笑い、「じゃあ、見せてあげる。でも条件があるわ。私も仲間に入れてちょうだい。」そう言うと、彼女は闇の中に飛び込み、一瞬で道を切り開いてみせた。



 

第四話:愛が魂を呼び、月は死を照らす


 モシカモシカ一行は、ナニキャットの導きにより遺跡の奥深くへ進む。その空間は奇妙に静まり返り、壁に描かれた古代の文字がぼんやりと光を放っていた。その中心には、円形の祭壇があり、四枚のカードが宙に浮かんでいる。そのカードにはそれぞれ「愛」「魂」「月」「死」と刻まれていた。「これが伝説のカードか……。」トリゴリーが耳の羽をゆっくりと動かしながら呟く。「でも、このカードがどうやって扉を開くんだ?」トリブリオンが困惑した顔で祭壇を見上げる。そのとき、遺跡の上空から巨大な影が迫ってきた。荒々しい風が吹き込み、一行を包む空気がピリリと張り詰める。モシカモシカがその影に目を凝らすと、それは翼を持つ恐ろしい魔物だった。「お前たち、カードに触れるつもりか!」魔物は轟くような声で叫んだ。「それに触れれば、この世界に隠された可能性が溢れ出す。だが、代償は大きいぞ!」ナニキャットが尻尾をくるくると回しながら、余裕の表情で言う。「ねえ、どうするの?この魔物、ただ脅かしてるだけかもしれないわよ。」トリゴリーとトリブリオンはお互いに目を合わせる。「可能性にはいつだって危険が伴う。」トリゴリーが言った。「でも、それが『もしも』の力ってやつだろ?」トリブリオンも続ける。モシカモシカはその二人を見て頷いた。「もしも、この魔物を乗り越えられるなら――僕たちはもっと先に進めるはずだ!」



戦いと選択


 魔物は空を舞いながら、一行に次々と攻撃を仕掛けてきた。鋭い爪が空気を切り裂き、遺跡全体が揺れる。トリゴリーは耳の羽で空を飛び、魔物の動きを封じるために囮となる。「おい!こっちだ!」彼は木の葉のように軽やかに空中を駆け、魔物の注意を引いた。その隙にトリブリオンが魔法を唱える。彼の耳の羽が輝き、小さな光の弾が魔物に向かって飛び出す。ナニキャットは素早く遺跡の柱を跳び回り、魔物の足元に罠を仕掛ける。「さあ、これで一歩動きにくくなったわね。」尻尾を振りながら得意げに言った。モシカモシカは、「もしも僕がこの状況を打開できるなら……!」彼は祭壇に走り寄り、浮かぶ「愛」のカードに手を伸ばした。その瞬間、カードが輝き、彼の頭に生えた鹿の角がまばゆい光を放つ。光は仲間たちを包み込み、魔物を大きく吹き飛ばした。魔物は怯えたように後退しながら呟く。「なるほど……お前たちは『もしも』を信じる者か……だが、これは始まりにすぎないぞ!」



愛のカードが開く扉


 魔物が姿を消したあと、遺跡の静けさが戻った。モシカモシカの手の中にある「愛」のカードは、温かな光を放ち続けている。「愛が魂を呼ぶ……か。」モシカモシカは小さな声で呟いた。そのとき、祭壇の中心に隠されていた扉がゆっくりと開き始めた。中からは何やら水音が聞こえてきた。ナニキャットが興味津々に近づき、クンクンと匂いを嗅ぎながら言った。「行くしかないわよね?」トリゴリーとトリブリオンも微笑んで頷いた。「可能性がある限り、俺たちは進むだけだ。」モシカモシカは仲間たちを見渡し、再び心を決めた。「もしもが僕たちを呼んでいるなら――僕たちはそれに応える!」



 

第五話:もし魂を失えば


 水音の正体は泉だった。この泉は「記憶の泉」と呼ばれ、過去の記憶や内なる真実を映し出し、訪れる者に向き合う勇気を求めてくる。一行が泉のほとりに立ったとき、不思議な声が響き渡った。「もし魂を失えば、どこに帰る?」その言葉が終わると、泉が激しく波打ち、仲間たち一人一人が個別の幻影の中に引き込まれた。



モシカモシカの試練


 モシカモシカは、自身の平凡な「モー」であった頃の姿に戻されていた。彼は再び無力な鴨として、かつてのように魔物に襲われ、鹿の王に救われるという過去を繰り返す。しかし今回は鹿の王が現れず、自力で魔物と向き合わなければならない。彼が震えながらも立ち向かう決意をした瞬間、角が再び輝き始め、彼の中に秘められた可能性が目覚めたのだ。この気付きにより、幻影は消え去った。



トリゴリーの試練


 トリゴリーは、力を持たないただの「ゴリー」として孤独なジャングルに閉じ込められた。彼は仲間の声も届かない中で、翼を失った不安と戦い続ける。しかし、彼は力だけではなく仲間との絆こそが本当の強さであることを悟り、幻影の中で自らの翼を再び広げるのだった。



トリブリオンの試練


 トリブリオンの幻影は、魔法を失い無力な「ブリオン」として広大な闇の中に投げ出されることだった。彼は孤独と無力感に陥ったことで、自身が魔法に依存していたことに気付いた。やがて、魔法は自分の外にある力ではなく、信じる心から生まれることを理解し、闇を照らす光を見つける。



ナニキャットの試練


 ナニキャットは、自分の奇妙な姿を嘲笑され、居場所を失った世界に閉じ込められていた。しかし彼女は、自分らしさこそが力であり、異形であることがむしろこの世界において可能性を広げると気付く。彼女が自信を取り戻した瞬間、幻影が晴れるのだった。



魂のカードを手に入れる


 ナニキャットが「なんだか胸が軽くなった気がするわ。でも、これが試練だったなんて、かなりきつかった。」 それを聴いたトリゴリーは「オレたちは、もっと強くなれたんじゃないか。羽だけじゃなく、心の翼も広げられた気がするぜ。」と快活に笑った。仲間たちが「ただの異形」から「可能性に満ちた冒険者」へ脱皮したのだ。 このカードには仲間たちの心の軌跡が刻まれており、それを手にしたことで、彼らの結束はさらに強固なものとなった。いつのまにか、記憶の泉は静まり、中央に「魂のカード」と次なる扉が開いた。中からは不思議な月明かりのような光が漏れ出している。



 

第六話:月が死を照らすとき


 扉の向こうに広がっていたのは、漆黒の夜空が果てしなく続く、不思議な空間だった。地面には足跡一つなく、全てが滑らかな鏡のように光を反射している。その中央には、巨大な三日月が浮かび上がり、薄い青白い光を放っていた。「なんだここは……?」モシカモシカが呆然とつぶやく。ナニキャットは軽やかに尻尾でバランスを取りながらその場を歩き回る。「まるで月の中に迷い込んだみたいね。」トリゴリーとトリブリオンは、それぞれ耳の羽を広げてふわりと宙に浮かび、周囲を警戒し始めた。「この静けさ、逆に怪しいな。いつ何が飛び出してくるかわからない。」トリゴリーが声を潜めて言う。モシカモシカは小さく頷きながら、一歩踏み出す。



月の声


 歩みを進めるにつれて、三日月の周囲に奇妙な音が響き始めた。それは人の声のようでもあり、風のささやきのようでもある。「……魂を呼ぶのは、何処の月……?」モシカモシカはその声に導かれるように月に近づく。すると、月の光が形を変え始め、一人の女性の姿が浮かび上がった。その姿は朧げで、どこか儚い。彼女の瞳は星のように輝いており、その唇が再び動いた。「旅人よ、私は月の守護者。この地に来たということは、次なる問いに答える覚悟があるのだな?」モシカモシカは驚きながらも頷いた。「うん、僕たちはここに来た理由を探し続けている。」彼女は微笑みながら問いを発した。「もし月が消えれば、夜をどう導く?」その問いに、トリゴリーがすぐさま口を挟む。「月が消えたら……星の光を頼るしかないんじゃないか?」だが、月の守護者は静かに首を横に振る。「星だけでは足りない。この世界の真理を知るには、もっと深く考えなければならない。」ナニキャットが冗談っぽく尻尾を振りながら言った。「じゃあ、私たちが月になればいいんじゃない?」守護者はその言葉に小さく笑みを浮かべた。「興味深い発想だが、それでは夜を導くにはまだ足りない。」



月を守る選択


 そのとき、空間全体が揺れ始めた。地面の鏡面がひび割れ、暗闇の中から新たな魔物が現れた。今回の敵は影そのもののように黒く、不定形で動く。「また魔物か……!」トリブリオンが耳の羽を広げ、魔法を唱え始める。「準備はいいか、みんな!」モシカモシカは少し考え込みながらも言った。「いや、戦うだけじゃだめだ。この魔物はただの敵じゃない気がする。」すると、守護者の声が再び響く。「その魔物は、月が消えることで生まれる『闇の可能性』そのものだ。それを乗り越えられるかが、お前たちの試練だ。」トリゴリーとトリブリオンが攻撃を試みる一方で、モシカモシカは考え続けた。「もしも、月が消えるのが恐ろしいことじゃなくて、新しい夜を迎えるための一歩だとしたら……?」そう呟いた瞬間、モシカモシカの角が再び輝き始めた。その光は影の魔物を包み込み、彼の思考がその闇に届いていく。「僕たちは夜を恐れない。月が消えたら、次の夜の可能性を探せばいいんだ!」その言葉と共に、魔物はゆっくりと溶けるように消え去り、空間が再び静けさを取り戻した。



月のカードを手に入れる


 守護者は満足そうに微笑みながら、一行に新たなカードを差し出した。それには「月」の文字が刻まれていた。「お前たちの選択を見届けた。このカードは次の扉を開く鍵となるだろう。」モシカモシカはカードを慎重に受け取り、仲間たちを振り返った。ナニキャットは嬉しそうに尻尾をくるくる回しながら言う。「さあ、次の謎は何かしらね?」トリゴリーとトリブリオンも頷き、それぞれ耳の羽を整た。



 

第七話:死が命を照らすとき


 新たな扉を開けると、一行は広大な荒野に立っていた。その景色は色を失い、灰色一色に包まれている。木々は枯れ果て、地面はひび割れ、空には一筋の光もない。ただ静寂だけが漂う異様な空間だ。「ここは……なんだか冷たくて寂しいところね。」ナニキャットが小声で呟く。「まるで死が支配する場所みたいだ。」トリゴリーが険しい表情で周囲を見渡す。モシカモシカは静かに頷きながら、胸に抱いたカードを見つめた。「もし死がなければ、命をどう感じる?この問いに答えるための場所なのかな……。」



荒野を進む


 荒野を進む中、次第に地面が変化を見せ始めた。枯れ果てた植物の間に、小さな芽が顔を出しているのが見える。「あれ、命が芽吹いてる?」モシカモシカが不思議そうに目を凝らす。トリブリオンは耳の羽を軽く動かし、上空から地面を観察する。「でも不自然だ。なんでこんな場所に芽が生えてくるんだ?」そのとき、突然地面が揺れ、一行の前に巨大な影が現れた。それは骸骨のような姿をした魔物だった。目には冷たい青い光が宿り、無数の亡者たちを引き連れている。「来たぞ、敵が!」トリゴリーがすぐさま構えを取り、トリブリオンが魔法を準備する。だが、モシカモシカは立ち止まり、その魔物をじっと見つめた。「待って。この魔物、ただの敵じゃない気がする……。」



死の真実


 骸骨の魔物が低い声で語りかけてきた。「旅人よ、ここは命が終わる場所。そして新たな命が始まる場所でもある。もし死を恐れるならば、進む資格はない。」「死を恐れない……?」トリゴリーが驚いた顔でモシカモシカを見る。モシカモシカは静かに頷いた。「そうだよ。死は終わりじゃない。新しい命の可能性を教えてくれるものなんだ。」骸骨の魔物はその言葉に反応するように動きを止めた。「では試してみるがいい。お前たちの可能性を。」その瞬間、亡者たちが一斉に襲いかかってきた。



闘いと選択


 一行はそれぞれの力を駆使して魔物たちに立ち向かう。トリゴリーが耳の羽で加速しながら魔物を引きつけ、トリブリオンが魔法で次々と亡者を消し去る。ナニキャットは尻尾の柔軟性を活かし、器用に敵をかわしながら仲間たちをサポートする。しかし、どれだけ倒しても亡者たちは次々と湧き上がってくる。「キリがない!」トリゴリーが声を上げる。モシカモシカは思案した末、角に手を当て、再び「もしも」を考えた。「もしこの亡者たちがただの敵じゃなくて……僕たちが受け入れるべき何かだとしたら……?」そう呟きながら、彼は魔物たちに向き直った。「僕たちは君たちを否定しない!君たちの存在を受け入れて、命を次へ繋ぐよ!」すると、骸骨の魔物が動きを止めた。そしてその場に立ち尽くしながら、冷たい声で言った。「その言葉、聞かせてくれるか。」モシカモシカはゆっくりと近づき、語り始めた。「死は終わりじゃない。僕たちが何かを終えることで、次の何かが始まる。その可能性があるから、命は輝くんだ。」



死のカード


 骸骨の魔物はゆっくりと崩れ落ち、その中から一枚のカードが現れた。それには「死」の文字が刻まれている。守護者の声が荒野に響く。「よくやった、旅人たち。このカードは命の本質を見つめる扉を開くだろう。」モシカモシカはカードを手に取り、仲間たちに微笑みかけた。ナニキャットはしっぽを高く振り上げながら言う。「さあ、次の謎に挑戦ね!」



 

第八話:もしもの扉


 一行はすべてのカードを手に入れ、旅の目的地である「もしもの扉」に到達した。その場所は、周囲を深い霧に覆われ、何も見えない。しかし、そこにただ立つだけで、胸の奥がざわめく。扉は巨大な石で作られており、表面には複雑な模様が刻まれている。その中央には四つの穴が開いており、まるでそれぞれのカードをはめ込むために存在しているかのようだった。



扉の前で


 トリゴリーが羽を少し動かして言った。「でも本当にこれを開けていいのか?この扉の向こうに何があるか、誰にもわからないんだぞ。」「そうね。もしこの先がもっと危険な場所だったらどうする?」ナニキャットが尻尾をゆっくり振りながら問いかける。しかしトリブリオンはニヤリと笑った。「でもさ、もしその向こうに、俺たちが探していた“何か”があるとしたらどうする?俺はそれが楽しみでたまらないけどな。」モシカモシカは三人の意見を聞きながら、角にそっと触れる。そして、カードをひとつずつ扉の穴にはめ込む準備を始めた。



もしもの問い


 最後のカードをはめ込む直前、扉から声が聞こえてきた。それは低く、どこか懐かしさを感じさせる響きだった。「旅人よ、お前たちに最後の問いを授けよう。“もしも、この扉を開くことで全てを失うとしたら、それでもなお開きたいか?”」静寂が訪れた。一行は顔を見合わせ、言葉を探した。トリゴリーは拳を握り締め、前に出た。「俺はどんなに失うものがあっても、進むべきだと思う。もし止まったら、俺たちの可能性そのものを失う。」トリブリオンも続けた。「失うものより得られるものを信じる。それが“もしも”の冒険の本質だろ?」ナニキャットは静かに微笑んで言った。「もしも止まる勇気があるなら、それも選べる。でも私は、進むほうが好きね。」モシカモシカはみんなの言葉を聞きながら、深く息を吸い込んだ。そして静かに答えた。「もしも失うものがあっても、僕たちは進むよ。この扉を開けることで、次の可能性が待っているなら――。」



扉の向こう


 モシカモシカが最後のカードをはめ込むと、扉がゆっくりと音を立てて開き始めた。中からは眩い光があふれ出し、霧が一瞬で晴れる。そして、そこに広がる光景に一行は言葉を失った。そこは無限の世界だった。空には幾千もの星々が輝き、地平線には不思議な植物や動物が広がる。大地は虹色に輝き、風は柔らかく、心地よい音楽のような響きを持っていた。しかしその中心には、一人の人物が立っていた。彼の頭には立派な鹿の角があり、その姿は威厳と優しさを兼ね備えている。「ようこそ、旅人たち。私の名はロードブリティッシュ――この世界の守護者だ。」



鹿の王との対話


 ロードブリティッシュは一行に語りかけた。「お前たちは“もしも”の力を理解し、この場所までたどり着いた。だが、それは始まりにすぎない。」モシカモシカは一歩前に出て尋ねた。「始まり……ですか?僕たちは何をすればいいんですか?」「“もしも”とは可能性だ。お前たちがこの冒険で学んだように、愛、魂、月、死――すべては可能性を示している。この世界をどう作り上げるかは、お前たち次第だ。」「僕たち次第……。」モシカモシカは仲間たちと目を合わせた。ロードブリティッシュは微笑みながら言った。「そうだ。だがそのために、まずはこの世界を守らねばならない。もしも“破壊”が訪れるなら、全てが消え去るのだから。」



 

第九話:もしもの影


 新たな世界へ足を踏み入れた一行。目の前には広大な光景が広がっているが、その奥に不穏な気配を感じる。ロードブリティッシュが語った“破壊”とは、一体何なのか?



破壊の予兆


 「破壊……って何のことだ?」トリゴリーが、いつもの強気な調子を崩さずに問いかける。ロードブリティッシュの表情がわずかに曇った。「破壊とは、“もしも”を否定する力だ。この世界を作り出している可能性そのものを消し去ろうとする存在――それが“EXODUS”だ。」その名を聞いた瞬間、空が一瞬暗くなり、大地がわずかに震えた。「EXODUS……」モシカモシカはその名を反芻しながら、恐怖と興味の入り混じった表情を浮かべた。「それが、僕たちが本当に立ち向かわなければならない相手なんですね。」



“もしも”の歪み


 ロードブリティッシュは説明を続けた。「EXODUSはこの世界の裏側、いわば“もしもが失われた場所”から現れる存在だ。この扉を開けたことで、奴はお前たちの強さと可能性を察知し、完全な力を得るためにこちら側に来ようとしている。」「もしもが……失われた場所?」トリブリオンが眉をひそめる。「そんな場所があるのかよ?」ロードブリティッシュは頷く。「この世界には、無数の“もしも”がある。しかし選ばれなかった“もしも”――諦められた可能性たちは、EXODUSの糧となり、やがてそれが膨れ上がり、破壊の力となるのだ。」ナニキャットが静かに尻尾を揺らしながら言った。「つまり、私たちはその“もしも”を取り戻さないといけないってことね。」



冒険者たちの決意


 「EXODUSを倒すにはどうすればいい?」モシカモシカが真剣な顔でロードブリティッシュに尋ねた。「お前たちには、それぞれの力がある。それを最大限に引き出すことで、奴に対抗できるだろう。」「俺たちの力って、羽とか角とか、そういうのか?」トリゴリーが軽口をたたくが、真剣な眼差しを向けている。ロードブリティッシュは頷いた。「その通りだ。それぞれが得た力は、“もしも”の象徴だ。そしてそれらを合わせることで、さらに強い可能性を生み出せるはずだ。」トリブリオンは大きく羽を広げながら笑った。「つまり、俺たち全員が力を合わせれば、なんとかなるってことか!」「その通りよ!」ナニキャットが鋭い声で同意する。「もしも私たちが一緒にいるなら、何だって可能だわ。」



次なる冒険へ


 モシカモシカは仲間たちを見回しながら言った。「よし、行こう。もしもを守るために――そして、僕たち自身の可能性を証明するために。」一行は新たな決意を胸に、EXODUSが潜む“もしもが失われた場所”へ向かうべく旅を続ける。そして、その旅路にはこれまで以上に困難な試練と、予想もしない出会いが待ち受けている。果たして彼らは“もしも”を取り戻すことができるのか――?



 

第十話:もしもが描く軌跡


 “もしもが失われた場所”への道は不確かだった。そこには地図もなければ目印もない。ただ、モシカモシカたちの心に刻まれた「もしも」が進むべき道を指し示しているようだった。



もしもを繋ぐ声


 「ところでさ、もしもって具体的に何なんだ?」トリゴリーがふと立ち止まり、耳の羽をバサリと広げながら聞いた。モシカモシカは少し考えてから答えた。「僕たちにとって、“もしも”っていうのは、こうだったらよかったな、こうだったらどうしようって、心の中で思うすべてのことじゃないかな。」「つまり、“後悔”や“希望”みたいなもの?」トリブリオンが重い声で尋ねる。「うん、そうだと思う。でも、それが形を持つとどうなるのか、まだ僕にもわからない。でも……」モシカモシカは自分の角に触れながら微笑んだ。「この角だって、もしもの証だよね?」そのとき、不意にナニキャットが耳をピンと立てた。「待って……何か聞こえるわ。」一行が静まり返る中、どこからか微かに響く声が聞こえてきた。それはまるで、多くの人々が囁いているかのような音だった。「もし……もし……も……」「これが、もしもの声?」ナニキャットは自分の尻尾をきゅっと巻きながらつぶやいた。「違う、それは“もしも”が消えかけている音だ。」ロードブリティッシュが厳しい表情で言った。「急がねばならん。もしもの声が消え去る前に、奴を見つけなければ。」



失われた可能性の森


 声に導かれた先に、一行は奇妙な森にたどり着いた。その木々はねじれ、朽ち果てており、光がほとんど差し込まない。風も吹かず、異様な静けさが森を覆っていた。「気味が悪いな……ここ、何かいるんじゃないのか?」トリゴリーが身構えながら言う。トリブリオンは鼻をひくつかせた。「いるな。だけど……どこにいるんだ?」そのとき、木々の影からゆらゆらと黒い霧が現れた。霧は形を変えながら近づき、一行を取り囲むように広がった。「出たな……これがEXODUSの手先か?」モシカモシカは震える足を無理に踏みしめながら立ち向かう準備をする。「違う、これは“もしもを失った者”たちだ。」ロードブリティッシュの声には深い悲しみがこもっていた。「彼らは自分の可能性を否定し、EXODUSの力に取り込まれてしまったんだ。」



戦いと気づき


 黒い霧が一行に襲いかかる。その姿は次々に形を変え、時にかつての人や動物の姿に見えることもあった。「これは……!」トリゴリーが一瞬躊躇した隙に霧が迫る。しかし、その時、モシカモシカが前に飛び出した。「もしもを取り戻せるなら、僕がやる!」彼の角が輝き、光が霧を弾き飛ばす。その光景を見て、トリブリオンやナニキャットも一斉に動き出す。トリゴリーの羽が風を起こし、ナニキャットの尻尾が敵の進行を封じ、トリブリオンがその巨体で守りを固める。「みんな……ありがとう!」モシカモシカは仲間たちに感謝の声を上げながら、黒い霧を一つずつ消し去っていった。やがて霧は完全に消え、一行は深い息をついた。



再び現れる“扉”


 森の奥から、ぼんやりと光る扉が現れた。その扉には、不思議な文様が刻まれており、一行を引き寄せるような気配がある。「これが……“もしもが失われた場所”への入口だ。」ロードブリティッシュが慎重に扉を見上げる。モシカモシカは扉を見つめながら言った。「これを開けたら、もっと大変なことが待ってるのかな。でも……もしも僕たちがやらなかったら、この世界はどうなってしまうんだろう。」ナニキャットがふっと笑いながら言った。「だったらやるしかないじゃない。だって私たちは“もしも”の象徴なんだから。」「そうだな!」トリゴリーとトリブリオンが声を合わせて言う。扉に手をかけるモシカモシカ。光が一行を包み込み、次の世界へと誘っていく――。



 

最終話:もしもが失われた場所


 扉の向こうは、奇妙に歪んだ世界だった。空には割れた月が浮かび、地平線の果てには無数の壊れた塔がそびえ立っている。土地は荒廃し、生き物の気配はない。ただ静寂が世界を包んでいた。「ここが……“もしもが失われた場所”?」モシカモシカが周囲を見回しながらつぶやいた。「この空気、胸が押しつぶされそうだ。」トリゴリーは耳の羽をしぼませ、警戒の態勢を取った。ナニキャットは尻尾を高く掲げながら歩を進める。「ここには“もしも”が存在しないんだわ。全てが否定されている感じがする……」「だからこそ、ここでEXODUSが力を増しているんだ。」ロードブリティッシュは硬い声で言った。「もしもがなければ、未来も希望も存在しない。それを操るEXODUSの目的は……この世界の完全な終焉だ。」



彷徨う“もしも”


 一行が歩みを進めると、荒れ果てた地面の上に、かすかに光る何かを見つけた。それは、言葉では言い表せない不思議な形をしていた。まるで、誰かの“もしも”が形を失いかけているようだった。「これが……“もしも”の残骸?」トリブリオンがそれを拾い上げようとしたが、触れるとすぐに粉々に崩れてしまった。モシカモシカはそれを見て、角をそっと撫でた。「もしもを信じなければ、こうやって消えてしまうんだ……」そのとき、遠くから低い音が響いた。音の方向を見ると、一つの塔の頂上に巨大な黒い影が揺らめいているのが見えた。



EXODUSとの対峙


 「ついに見つけたな。」ロードブリティッシュはその影をじっと見つめた。「あれがEXODUSだ。」影はゆっくりと塔から降りてくる。近づくにつれ、その姿がはっきりとしてきた。それは形を持たないようで、同時に無数の形を持つ存在だった。顔のようなものが浮かび上がり、次の瞬間には消える。手足のようなものが伸び、瞬く間に霧散する。その不気味な姿に、トリゴリーとトリブリオンも後ずさりした。「ようやく来たか……お前たちが、この世界の“もしも”を復活させようとしている愚か者たちか。」低く響く声が、空間全体に広がった。モシカモシカは一歩前に出る。「そうだ!僕たちは“もしも”を取り戻しに来た!この世界には、可能性が必要なんだ!」EXODUSは嘲笑するように答えた。「可能性?そんなものが何の役に立つ?可能性は失望を生むだけだ。夢破れることを恐れるくらいなら、初めから夢など持たなければいいのだ。」「それでも!」モシカモシカは声を張り上げた。「もしもの力は、失望を超えて未来を作るんだ!僕たちにはそれが必要なんだ!」



決戦の始まり


 EXODUSがその黒い影を伸ばし、一行に襲いかかる。「モシカモシカ!時間を稼ぐから、あの塔に向かえ!」トリゴリーが耳の羽を大きく広げ、風を巻き起こしてEXODUSの攻撃を防ぐ。「任せて!」トリブリオンがその巨体で盾となり、ナニキャットが素早い動きで敵の注意を引きつけた。モシカモシカは仲間たちに感謝の思いを抱きながら、塔へと駆け上がった。彼の角は輝きを増し、道を照らしていく。塔の頂上にたどり着くと、そこには巨大な水晶が浮かんでいた。その水晶には無数の“もしも”が閉じ込められているようだった。「これが……!」ロードブリティッシュが後から現れ、説明する。「その水晶を壊せば、この世界の“もしも”が解放されるだろう。しかし、それはEXODUSが最も恐れることだ。全力で妨害してくるはずだ。」「やるしかない!」モシカモシカは角を構え、力を集中させた。



光の解放


 下ではトリゴリー、トリブリオン、ナニキャットが奮闘していた。EXODUSの影は次々と形を変え、絶え間なく襲いかかる。だが、三人は決して諦めることなく戦い続けた。「まだか、モシカモシカ!」トリゴリーが叫ぶ。その瞬間、塔の頂上からまばゆい光が放たれた。モシカモシカの角が水晶を貫き、無数の光が空へと解き放たれる。「これが……“もしも”だ!」モシカモシカが叫ぶと、光はEXODUSを包み込み、その影を徐々に消し去っていった。EXODUSの最後の言葉が響く。「愚か者どもよ……だが、お前たちの“もしも”が新たな未来を生むならば、それを見届けてやろう……」EXODUSが消滅すると同時に、世界に色と命が戻り始めた。



新たな始まり


 荒廃していた大地は緑を取り戻し、空には輝く月が浮かんでいた。モシカモシカたちは仲間たちとともに、その光景を見つめていた。「これで、この世界にも可能性が戻ったんだね。」モシカモシカは微笑んだ。ロードブリティッシュは静かに言った。「だが、これが終わりではない。もしもの可能性は、新たな挑戦を呼び起こす。」「それなら、それに向かってまた進むだけだ!」モシカモシカが力強く言うと、トリゴリー、トリブリオン、ナニキャットも頷いた。


彼らの冒険はまだ終わらない――新たなもしもを求めて、旅は続いていくのだ。



「もしかもしか」完

 


 

あとがき



 この物語は魔物退治の物語ではありません。何かを探し求める物語です。魔物は何かを見つけるための小道具にすぎません。ありえないことを思うとき「もしも」は、期待と、ともすれば諦めを伴うのです。






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