2025/2/15
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プロローグ
ある雨の日、「1.9Lの魔法びん」にスーツ姿の男が訪れた。最新のAIアシスタントを駆使し、仕事も生活もすべて「最適化」されているらしい。
彼はスマホを取り出し、AIに「おすすめのカフェドリンク」を尋ねる。そしてメニュー表も見ずに「本日の最適解」として提案されたものを注文した。
「マスター、カフェ・アフォガートを。」
「…うちにはないよ。」
一瞬の沈黙。
「では、ラテアートの評判がいいと出ていますが…。」
「うちはラテアートもやらない。」
彼は眉をひそめ、スマホを何度も操作する。しかし、彼のAIには「1.9Lの魔法びん」の正確なメニューが登録されていなかった。
それから
「では…おすすめは?」
「どういう味がお好みですか?」
彼は答えに詰まる。
「AIは何と?」
「……」
しばらくして、「では、ブラックで」と彼は言った。
マスターは黙ってコーヒーを淹れる。その間、彼は店内を見渡した。柱時計が時を刻み、白熱電球の光が雨粒を照らす。古びたレコードが静かに回り、カウンターにはドライフラワーが置かれている。
彼は何かを言いかけたが、やめた。
マスターがカップを差し出す。彼は一口飲む。苦味が口に広がる。
「どう?」
彼は少し考えた。
「……分からない。」
マスターがクスッと笑う。
「じゃあ、もう一口飲んでみたら?」
彼はもう一口飲む。
「……なんだか、思っていたよりも…悪くない気がする。」
「そう、それが君の味覚だよ。」マスターが言う。
彼はハッとしたようにスマホを見た。そこには「ブラックコーヒーは好みに合わない可能性があります」とAIの分析結果が表示されていた。
「でも、好きかもしれない。」彼は独り言のように呟いた。
そのとき、柱時計の針が、静かに12時を指した。
エピローグ
それから数日後、彼は再び店を訪れた。今度はスマホを取り出さず、メニュー表をじっと見つめる。そして、少し迷ったあと、口を開いた。
「マスター、今日は…カフェオレを。」
マスターは静かに微笑みながら、コーヒーを淹れ始めた。
あとがき
「マイクロソフトとカーネギーメロン大学の研究によると、AIツールに依存するほど批判的思考の機会が減り、必要なときに発揮しにくくなることが判明。また、生成AIの利用者は回答が画一化しやすく、多様性を失う傾向がある。AIの効率向上は否定されていないが、依存しすぎると技能や思考力を失い、最終的に自らを時代遅れにしてしまう可能性があると警告している。」というニュースを見て自戒を込めた物語。
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