2023/3/23
「映画でも自分の中で「腑」に落ちない残像が残るものがありますね。結構、忘れられない…」と先輩が言った。「腑に落ちない残像」という面白い表現をした。先輩が言わんとした真意はわからない。わからないが、色々な思いが湧き上がってくる。
日本人の多くが漫画を見て育ったはずだ。友人たちで見たことがない人はいなかった。日本人の文化の根底には、幼い頃に見た漫画があると思う。
ものの考え方や価値観が漫画を通して形成された可能性さえある。そこには顔をしかめるようなものもたくさんあったが、多くは根性や友情あるいは武士道のようなものだった。
子供時代に接した漫画が、人々の行く末に影響を与えていることを思うとちょっと怖い気もする。
今や把握しきれないほど多様性を持った漫画世界そのものがコントロール不能かもしれないが、漫画を通じた思想コントロールの可能性を排除できない。
「人を殺してみたかった」という犯罪者の言葉に、何度死んでもやり直せてしまう漫画世界と現実世界の境界線があやふやになっている影響を感じてしまう。
いつの世も繰り返されて来た「今時の若者はけしからん」と言う常套句かもしれない。実際にそうだろう、昔から凶悪な犯罪は絶えたことがなく今始まったことではない。
とはいえ、漫画に描かれる世界の異質さに唖然とし始めたのは、自分が育った時代の感性と違いが生じ始め、腑に落ちないものを感じているからでもある。
御託を並べたが、現実世界と架空世界を重ねることができる現代はとても面白い。すでに混同して気がつかなくなっているかもしれない。我こそ漫画の国日本の住人である。
歌川国芳 「相馬の古内裏」Procreate5.3.4で描く
かねてから善悪が入り混じり、モラルを振り切り、エネルギーのほとばしる漫画世界の異常さはどういうことだろうと不思議に思っていた。
追記
漫画の神様、手塚治虫は「どんなに強烈な、どぎつい問題を漫画で訴えてもいいが、基本的人権だけは、断じて茶化してはならない」と言っていた。そして、以下の3点を守るべきと語っている。
戦争や災害の犠牲者をからかうようなこと。
特定の職業を見くだすようなこと。
民族や、国民、そして大衆をばかにするようなこと。
漫画の神様は、漫画世界がリミッターを振り切っていくことを予見していた。
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