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光と音

  • 執筆者の写真: Napple
    Napple
  • 3月15日
  • 読了時間: 5分

2025/3/15



光を聴き、音を見る


 薄曇りの空の下、ワーランブールは静かに立っていた。彼の前には旅人――言葉をうまく話せない少年がいる。少年はカホンを抱えていた。


「ここでは、言葉の響きが違って聞こえるだろう?」


 ワーランブールの声が、まるで霧の向こうから響くように聞こえた。少年は戸惑いながらも頷く。


 そのとき、霧の奥から何かが近づいてきた。人影がゆっくりと現れ、やがて少年の前に立つ。背の高いその者は、まるで夜の影のような存在だった。


「あなたは……?」


 少年が声を発した瞬間、それは揺らめく光になって広がった。まるで声が形を持ったように、空間を漂いながら弧を描く。その影の者は微かに頷いた。


「彼は”音を見る者”だよ」


 ワーランブールが言った。


「彼にとって、君の声は光となって見える。逆に、彼が話すと、君にはそれが音として聞こえるはずだ」


 影の者が静かに腕を動かした。すると、空間に揺らめく光の波が現れ、空中に美しい模様を描く。その瞬間、少年の耳には確かに音が聞こえた。風が草を揺らすような、静かな声だった。


――おまえは誰だ?


「……君の言葉が聞こえた」


 少年は驚いて口を押さえた。ワーランブールは微笑む。


「彼らの世界では、声は形になり、光として見える。そして、彼らの言葉は音になる。まるで、反転した世界にいるようだろう?」


 少年は、カホンの上に手を乗せた。もし、この楽器の音も彼にとって”光”として見えるのなら――。


 手を振り下ろすと、乾いた低音が響いた。すると、影の者の周囲に波紋のような光が広がった。


「見えているんだね……」


 影の者はまた光の波を描き、それは少年の耳に新たな音として届いた。


――おまえの音は、きれいな色だ


 少年は微笑んだ。言葉をうまく話せなくても、彼とは通じ合える。音は光となり、光は音となる。それがこの世界の「会話」なのだ。


 ワーランブールはゆっくりと頷いた。


「さあ、もっと話してみるといい。音で、光で――おまえの言葉を」


 少年は再びカホンを叩いた。音は光となり、そして物語が始まる。



 

音の届かない宇宙で


 少年と影の者の会話は、音と光を交差させながら続いていた。


「君の世界では、音が形を持つんだね」

少年はそう言いながら、カホンを軽く叩く。すると、影の者の周りに波のような光が広がった。


――ああ、音は光として見える。だが、おまえの世界では、音はどうやって届く?


 少年は考えた。カホンの音が響くのは、ここに空気があるからだ。けれど、もしこの場所が宇宙空間だったら?


「音は……伝わらないよ。宇宙には空気がないから」


 影の者はじっと少年を見つめ、空間にゆらめく光を描いた。


――ならば、宇宙には音がないのか?


「うん。でも光は届く。宇宙空間を何万年も旅して、今も昔の光が僕たちのもとへ届くんだ」


 影の者は静かに頷いた。


――わたしたちは、過去の光を見ているのだな


「そう。でも、音はそんなに遠くまで届かない。音は空気の中で減衰して、すぐに消えてしまうんだ」


 影の者がゆっくり手を動かすと、光の波が生まれ、少年の耳に音が届いた。


――音が消えるなら、おまえたちはどうやって昔の音を聞く?


「記録するんだ。レコードやテープ、それから楽譜に残したり……。誰かが覚えて、奏で直すこともある」


 影の者は一瞬考え、光で新たな音を描く。


――記録された音は、永遠に生きるのか?


 少年は首を振った。


「いや……それも、いつかは消える。でも、音楽は人から人へ伝えられるから、形を変えて残ることもあるよ」


 ワーランブールが静かに微笑んだ。


「音は消え、光は残る。だが、音楽は人とともに続いていく。だからこそ、音楽は生きているのだろう」


 少年はカホンを叩いた。音はすぐに消えた。でも、影の者には、それが美しい光となって残った。


 影の者は、再び光の波を描きながら言った。


――ならば、おまえの音をもう一度聞かせてくれ


 少年は微笑み、カホンを叩いた。

 音は消え、だが光となり、物語は続いていく。



「光と音」了

 

あとがき


光と音のことが気になっていた。


疑問その1

なぜ、音は音源が見えなくても伝わるのに、光は光源を直接見ないと認識できないのだろう?音と光はどちらも「波」だが、何が違うのだろう?

理由

音は空気の振動(縦波)として伝わり、障害物を回り込んで届く。

光は電磁波(横波)であり、波長が短いため直進しやすい。


疑問その2

なぜ音は見えず、光は見えるのだろう?

理由

「音を見る」生物はいるのだろうか?

音の波長は長いため、視覚的に「見る」ことは難しい。しかし、コウモリのように超音波で周囲を「見る」生物はいる(エコーロケーション)。進化の過程では「音を視覚的に捉える」生物がいた可能性もあるが、視覚を発達させた種が生存競争に勝ったと考えられる。

「光を聴く」ことは可能なのか?

一般的な可視光の波長は非常に短いため、音として聞くことはできない。しかし、波長の長い電磁波(メートル波など)は、ラジオの電波として利用され、人間はラジオを通じて「光(電磁波)を聴く」ことができている。


疑問その3

なぜ光は何億年も届くのに、音はなぜすぐ消えてしまうのだろう?

理由

光は「電磁波」であり、音は「空気の振動」である。光(電磁波)は「電場」と「磁場」の波が空間そのものを伝わるため、媒質(空気や水などの物質)がなくても伝わる。だから宇宙空間でも進み続ける。音は「空気」や「水」などの分子が振動して伝わる波なので、空気がない宇宙空間では伝わらない。光は宇宙空間を減衰せずに進むため、何万年どころか億年以上前の光が地球に届くこともある。(たとえば137億年前のビッグバンの光も観測されている)一方、音は空気や水などの「媒質」がないと伝わらず、その媒質の中でも徐々に減衰するため、何万年どころか、数キロメートル離れたらほぼ消える。


こんな疑問が発端となってできた物語だった。

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