2024/12/25
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夕暮れ時、喫茶店「1.9Lの魔法びん」の白熱電球がオレンジ色の影を落としていた。彩音は窓際の席で紅茶のカップを手にし、陽翔は向かいに座ってスプーンを弄んでいた。
「かんかん照りの砂漠で、水は僕の水筒の中のほんの少しだけ。」陽翔は話し始めた。「ふと見ると僕の前に、水を欲しがって喉をかきむしって横になっている人がいる。僕は今喉が渇いていて水筒の水を飲みたい。でも僕が飲めば水は無くなってしまう。」彩音がカップを置いた。「どうするの?」「わからない。ただ、そんな二人を神様が見つめてる……って思うと、どうしたらいいのかますます分からなくなる。」
そのとき、ドアのベルが鳴った。無口な男が入ってきて、静かにカウンターに座った。何も言わず、古びた鍵を机に置いた。彩音と陽翔は顔を見合わせる。「鍵?」陽翔がつぶやく。続いて怪人案単多裸亜が入ってきた。帽子を振り回しながら席に座ると、鍵をちらりと見て微笑んだ。「神様はな、時々こうやって鍵を投げ捨てるんだよ。扉を開けるためじゃない。ただ人間が拾って、何かを開ける『ふり』をするために。」「ふり?」彩音が怪人を見つめる。怪人案単多裸亜は帽子をかぶり直し、目を細めた。「迷える子羊は、水を与えるかどうか悩む。でもな、砂漠に水を置いていく者がいるんだよ。誰かが拾うかどうかも知らずに。」「どういうこと?……」陽翔が首を傾げる。「神の真似事さ。」怪人は笑った。「自分が神になれると錯覚した人間が、水を置き、鍵を落とす。そして気づくんだ。鍵穴のない鍵は何も開かない。」
沈黙が流れた。無口な男は視線を落としながらコーヒーを飲み続け、怪人は不敵な笑みを浮かべた。彩音は小さくつぶやいた。「神様って、ただ見てるだけなのかな?」怪人案単多裸亜が立ち上がり、無口な男をちらりと見た。「神はな、扉を閉めることもあれば、開けたと『思わせる』こともある。だが、本当に鍵が必要なときは鍵を隠すんだよ。」その言葉は、神の存在を巡る会話に終止符を打つようであり、また新たな疑問を生むものであった。
あとがき
神とは何か。神は人類が自らの存在理由を問い、秩序を求める中で生み出したものかもしれないし、または人知を超えた存在として実在するのかもしれない。 高校生の時に描いた絵をモチーフに神様のことを、無口な男と、怪人案単多裸亜に語らせてみた物語。
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