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執筆者の写真: NappleNapple

更新日:2024年12月24日

2024/12/22

第一章: 「子供の頃の死」


 僕はかつて、死について滑稽な想像をしていた。「バキュームカーに轢かれてクソまみれになって死ぬ」なんて馬鹿げた光景を思い浮かべ、それが一周回ってかっこいいかもしれないとさえ考えたことがある。子供の頭の中は自由で、死に方にすら個性を求める。しかし、ある日ふと気づいたのだ。


「死に際のかっこよさは、それまでどんな生き方をしていたかなんだ。」


 その瞬間、僕は死に際の姿を考えるのをやめた。そして代わりに「いかに活くるか」を考えるようになった。それからの僕は、死について意識することはなくなった。


 

第二章: 「死者の国」


 だが、それも長くは続かなかった。病気を患い、仕事を失うかもしれないと不安に襲われ、僕は再び死と向き合わざるを得なくなった。死がそこにいる気配を感じるようになったのだ。そうした日々の中で、僕は奇妙な夢を見た。


 夢の中で、僕は死者の国と現実の国を行き来できる存在になっていた。死者の国は、廃墟のようでありながら遊園地のようでもあった。見渡す限り朽ちた建物が並び、時折回転木馬が軋む音が響く。最初のうちは誰にも会わなかった。ところが、僕が死者の国へ通じる穴を見つけた瞬間、死者たちが現実へと溢れ出してしまった。反対に、現実の人々も死者の国へ迷い込んでいった。僕は慌てて祈りを捧げ、死者を死者の国へ、現実の人間を現実へと送り届けた。しかしその作業は、混乱に次ぐ混乱だった。目覚めた時、僕は汗だくで、胸の鼓動が異様に高鳴っていた。


 

第三章: 「身近な死」


 それから幾年も経ち、隠居生活を始める頃には、死は身近で特別なものではなくなっていた。しかし、父の死が訪れた時、僕は再び揺さぶられた。


 尊敬していた父が変貌し、憎しみすら感じる自分に戸惑う。「もう死ぬ、世話になった」そう言う父を前に、人生の終わりがこんなものなのかと打ちひしがれた。落ち込む気持ちを抱えながら、僕はようやく父をありのままに受け入れようと決めた。しかし、その時から生きること自体が分からなくなった。


 

第四章: 「死者の国への再訪」


 愛犬の死は、その迷いをさらに深めた。ボケてきたのか、吠え続ける愛犬に怒りを覚えつつも、その小さな体が愛しくてたまらなかった。だんだんとおかしくなっていく愛犬を見つめながら、僕も同じようにおかしくなっていくのを感じていた。愛犬が天国へ召されて四十九日が過ぎても、悲しみは癒えなかった。柔らかな体温や毛並みの感触が手に蘇り、涙が止まらなかった。そんな中、僕は再び夢の中で死者の国を訪れた。そこには父と愛犬がいた。


「もう大丈夫だよ。」父はそう言って笑い、愛犬は静かに尻尾を振っていた。


 僕は彼らを見送り、現実の世界に戻る決意をした。死は終わりではなく、生きることの一部なのだと思えるようになった。


 

エピローグ: 「生きるということ」


 朝の光が窓から差し込み、僕は目を覚ました。リビングに置かれた父と愛犬の写真が、静かに微笑んでいるように見えた。だから僕は、今日もこの命を精一杯活くることにした。



 

あとがき


 時折、死がふと身近に感じられることがある。若い頃はそれを恐れていたが、年を重ねるうちに、その恐れは薄れ、むしろ穏やかな気持ちさえ覚えるようになった。今なら、いつ死んでも悔いのない人生だったと静かに言える気がする。 

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