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執筆者の写真napple

手塚治虫

更新日:5月24日

2023/2/8 


 物心がついた頃、手塚さんの作品が溢れていた。

ありがとう手塚さん。

 作品をいっぱい模写した。

 

1942年 ロスト・ワールド 前世紀(私家版)

 手塚氏が中学2年生の頃書いたもの。冒頭に「これは漫画にあらず、小説にもあらず」とわざわざうたっている。

ヒゲ親父

 私家版のヒゲ親父はまだこなれていないデザインで、背も高く、こんなに丸まっちい姿ではない。やがて多くの手塚作品に登場するうちに昇華され、見事なヒゲ親父が出来上がる。ヒゲ親父が主人公になることは少ないが、彼が出てくればどんな事件も解決、心強い正義の味方役者の誕生だ。


1948年 ロスト・ワールド(地球編・宇宙編)

 名前は知っているけれど、実際に手塚さんのロスト・ワールドに触れる機会は現在(2022年)までなかった。「ロスト・ワールド」「失われた世界」というタイトルの作品はいくつかある。1912年にアーサー・コナン・ドイルが「失われた世界」を発表。1925年映画「ロスト・ワールド」が公開され。1960年映画「失われた世界」でリメイクされ。1997年「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」が公開。2013年映画「ロスト・ワールド2013」が公開された。いずれも手塚さんの「ロスト・ワールド」とは別物だが、ドイルに触発されて発想したに違いない。

ミイちゃん

 「地帝国の怪人」に初登場した人間化した改造うさぎのミイちゃん。「ロスト・ワールド」でも大活躍。初期作品によく登場した。

アセチレン・ランプ

 なんで頭に蝋燭が立っているのかわからない。手塚さんのイメージの不思議なこと。でもこの顔がしっくりいく、なんとも言えない雰囲気を持った悪党専門の役者さん。

ハム・エッグ

 カールした髪とヒゲ、下がり眉でニヤけ顔のハム・エッグが出てくると、何かいかがわしいことが起きるに違いない。アセチレン・ランプやハム・エッグなど見事な悪役の誕生だ。

 

1947年 新寶島

 原作・構成酒井七馬、手塚治虫描き下ろし単行本『新寶島』がベストセラーとなり、大阪に赤本ブームを引き起こした。

ケン一

 ケン一は初期作品のほとんどに主人公として登場した永遠の少年。ところが「単純な正義感では語れない現実」に目を向けた手塚さんは、ケン一を描かなくなっていった。

 

1949年 メトロポリス

 初版のメトロポリスは読んだことがない。2001年にリメイクされた映画「メトロポリス」は手塚さんらしいキャラクターと今風のアレンジが洒落た感じだった。さて「メトロポリス」といえば1926年フリッツ・ラングが製作し、多くのSF作品に影響を与えた映画「メトロポリス」がある。例えば劇中に登場するアンドロイドはスター・ウォーズのC3POに影響を与えているし、都市の着想はブレードランナーにも影響を与えている。人間に変身するアンドロイド、超高層のビル群、空中を飛行する交通網、地下都市など等。さらに1984年ジョルジオ・モロダーがラングの「メトロポリス」を再編集し音楽をつけて公開した。このサウンドトラックはとてもよくできていて、一曲一曲がすばらしく、それぞれが映像にとてもマッチしている。初めて購入したレーザーデスクがモロダーの「メトロポリス」だった。手塚さんの「メトロポリス」も物語は異なるが着想を得ている原点だったに違いない。

ミッチイ

 ミッチイは雌雄両体の空を飛ぶロボットで、アトムやサファイアの原型となり、ミッチイ自身もアトムのお母さん役に抜擢。手塚ワールドの原型のようなキャラクターだ。

花丸博士

 多くの作品に登場した科学者キャラ。とても多くの作品に顔を出している。

ノタアリン

 こちらも科学者キャラクター。ノータリンではないノタアリンである。この人も本当にたくさんの作品に顔を出している。



 

1950年 ジャングル大帝

 デズニーの「バンビ」を何度も見たという手塚さん。「バンビ」はハッピーエンドだったが「ジャングル大帝」はバッドエンドにしたらしい。その後デズニーが作った「ライオン・キング」は明らかに「ジャングル大帝」の影響を受けている。テレビで見る初めてのカラー作品だった。また「小学3年生」にジャングル大帝が掲載されたおかげで、漫画版を嬉々として読んだ。大人になって単行本を手に入れ読み漁ったが、読むたびに物語が違っていた。色々なバージョンがある。

パンジャとレオ

クッター

 冨田勲のオープニングが素晴らしい。ボーカル付きのテレビのサウンドトラックが好きなのだが、惜しいかな、Apple Musicにはこれがない。

 

1952年 鉄腕アトム

 最初に出会った手塚さんの漫画は、アトムだった。テレビで見て、お隣さんの家で漫画雑誌「少年」に掲載されたアトムを見て、「ああ、漫画があるんだ」となんだかドキドキして、貴重なものを見るような気になったのを思い出す。

アトム

ウラン

お茶の水博士

 子供時代の夢は、お茶の水博士になることだった。大人になると、体型だけがお茶の水博士になっていた。お茶の水博士のイメージは善人そのものだが、よく見ると悪の翳りを持った猿田に似ている。

天馬博士

プルート

中村課長

たわし警部

フーラー博士


 アトムには沢山の手塚漫画お馴染みのキャラクターが登場する。手塚漫画には「スター・システム」があって、これらの登場人物をさながら映画俳優のように扱い、色々な漫画で役どころを変えて登場させる。一つのキャラクターが漫画によって性格を変え色々な役どころを演じている。主人公が脇役や悪役も演じてしまう。

 

1952年 ぼくのそんごくう

 「悟空の大冒険」の原作的な作品。

そんごくう

 

1953年 リボンの騎士

 冨田勲の音楽に良いしれ、男の心を持った女の子という、トランスジェンダーがすでにこの時代に取り上げられていたことに驚く。テレビ漫画になったことで、少女漫画を公然と見ることができたのも嬉しかった。

サファイアとオパール

チンク

 

1954年 火の鳥

 火の鳥は1954年「漫画少年」に掲載された「黎明編」を始まりに、1986年「太陽編」まで過去現在未来を縦横無尽に語り尽くした。手塚さんは死ぬ瞬間に1コマを描いて「現代編」とすると公言していたが叶わなかった。

  1. 1954年 黎明編(漫画少年版)

  2. 1956年 エジプト編(少女クラブ)

  3. 1956年 ギリシャ編(少女クラブ)

  4. 1957年 ローマ編(少女クラブ)

  5. 1967年 黎明編(COM版)

  6. 1967年 未来編(COM版)

  7. 1968年 ヤマト編(COM版)

  8. 1969年 宇宙編(COM版)

  9. 1969年 鳳凰編(COM版)

  10. 1970年 復活編(COM版)

  11. 1971年 羽衣編(COM版)

  12. 1971年 望郷編(COM版)

  13. 1973年 乱世編(COM版)

  14. 1976年 望郷編(マンガ少年版)

  15. 1978年 乱世編(マンガ少年版)

  16. 1980年 生命編(マンガ少年版)

  17. 1981年 異形編(マンガ少年版)

  18. 1986年 太陽編(野生時代)

執筆されなかった作品

  1. 大地編

  2. 再生(アトム)編

  3. 現代編

 望郷編からリアルタイムで読むことができた。B5判で再版された火の鳥で、黎明編から読み漁る。鳳凰編の素晴らしさに涙した。我王が愛おしい。そして我王が猿田だと知り狂喜した。

火の鳥

猿田


 手塚作品の多くの音楽を手がけた冨田勲。彼のアルバム「火の鳥」のジャケットを手塚さんが描いている。どういうわけかApple Musicに富田さんの火の鳥がない。またネット検索したとき、手塚さんの描いたジャケットがなかなか見つからない。手塚さんジャケットの火の鳥を持っていたのに手放してしまったのは残念なことをした。

 

1959年 魔神ガロン

  私が2歳の時の作品なので、リアルタイムに見たかもしれないが、はっきりとした記憶はない。でも、なんだか妙に惹かれる魔神ガロン。手塚さんの訃報を知って手に取ったのが秋田書店の「魔神ガロン」全1巻だった。


ガロン

 

1959年 0マン

 尻尾の生えた0マンと人間の物語。

リッキー

 

1963年 ビッグX

 生物を鋼鉄の強靭さで巨大化させる薬品ビッグXの物語。万年筆を手に入れると書くよりまず注射の真似をした。お風呂の時間と重なって、なかなか見せてもらえなかったが、歌は覚えている。「軍艦なんか踏んづけろ」・・・

朝雲昭

V3号

 

1965年 マグマ大使

 地球の創造主アースが、地球侵略を狙う「宇宙の帝王」ゴアとの戦いのために生んだ「ロケット人間」の物語。人間もどきが登場。

マグマ

 

1965年 W3

 テレビ版漫画版ともに素敵なW3。手塚さんはどこか色っぽい。うさぎになったボッコがなんだかセクシー。タイヤ型の乗り物に憧れた。

ブッコとボッコとノッコ

 

1966年 バンパイヤ

 テレビ版は実写にアニメが重ねられた実験的な作品だった。トッペイ役は水谷豊だった。彼がその後「相棒」の杉下左京になるとは。

ロック

トッペイ

 

1967年 悟空の大冒険

 手塚治虫の作品だと思っていたが、「僕の孫悟空」が原作の虫プロダクション制作のテレビ漫画だった。

悟空

 

1967年 どろろ

 妖怪ものが流行った頃登場した。手塚漫画の妖怪漫画。

百鬼丸とどろろ

琵琶丸

 

1968年 シャミー1000

 これは読んだことはないが、この絵を見たことがある。なんと色っぽい猫だろうと見惚れた。手塚さんのエロチシズムは人間だけではなく、動物さえもエロチックに表現できてしまう。しなやかな曲線と、魅惑的な目。

シャミー

 

1969年 海のトリトン

 テレビ版と漫画版の違いに驚く。一番覚えているのは主題歌だろう。「水平線の向こうにはあああー」

トリトンとルカー

 

1969年 ペックスばんざい

 これも読んだ記憶はないが、こんな感じの絵を見たことがある。子供向けの漫画とは異なるタッチなのだが、いかにも手塚さんらしい絵である。

フースケ

 

1969年 I.L

 不思議なタイトルである。手塚さんとしてはI'll(私は〜であろう)とするつもりだったらしい、ところが出版社が間違えてしまった。そこで手塚さんがヒロインの名前をI.Lにすることでおさめたという。長い作家活動の中そんなこともあるんだと妙に納得。変幻自在な謎の美女I.L(アイエル)を軸にしたアダルトファンタジー。

I.L

 手塚さんの作品をあらためて俯瞰すると、どれもエッチだ。ともすれば欲情的でさえある。最近の漫画こそ欲情的でと思っていたが、とんでもない。もう半世紀も前から手塚さんをはじめ漫画家たちはエッチなんだ。

 

1970年 不思議なメルモ

 テレビ放映された時は唖然としてしまった。物語はとても素敵だった、ただ、とてもエッチなのだ。

メルモ

 

1970年 きりひと讃歌

 犬のような姿になる人が登場する、外見による差別、人間の尊厳を問う問題作。手塚さんの物語は、とても複雑で、一筋縄ではいかない。舞台も四国の山間からアムステルダム、中東、アフリカと世界を駆け巡る。

小山内桐人

 

1970年 アラバスター

 このおっさんも見たことがある。でも「テツノのおっさん」という名前は覚えがないし、アラバスターも読んだ記憶がない。でもこのおっさんを知っているのは。手塚さんの「スター・システム」でどこかに登場していたのだろう。

テツノのおっさん

 

1970年 人間昆虫記

 十村十枝子は転身を繰り返しながらマスコミ界を渡ってゆく。それは漫画界で転身と変質を繰り返してきた手塚治虫自身のようだ。

十村十枝子

 

1971年 鳥人体系

 世界中で知能を持ち始めた鳥たちが、人類を脅かし始める。鳥類は鳥人となり、人類は彼らの家畜となって姿を消してゆく。高度な文明を築く鳥人たちだったが、迷信や偏見物欲に囚われ、差別、戦争、環境破壊を起こすようになり、ついには滅亡への道を歩み出す。

モッズ警部

 

1972年 ブッダ

 大阪北の阪急ファイブ5階の書店で立ち読みをして泣いた。社会人になって単行本を買って読んでまた泣いた。

シッダールタ

 

1973年 ブラックジャック

 スランプだった手塚さんの起死回生の作品が「ブラックジャック」であったことをのちに知った。ピノコの生い立ちと可愛らしさに参ってしまう。

ブラックジャック

ピノコ

 

1973年 三つ目が通る

 古代文明の謎を絡め、三つ目族が登場する物語は、とてもスリリングで、悪魔的な写楽がいい。また手塚さん独特なエロチシズムがふんだんに散りばめられ、和登さんが悩ましい。

写楽保介

和登さん

 

1973年 ワンサくん

 高校生になったが、まだ自宅のテレビで見ることができた。動きがいいなと思ったのもそのはずで、作中の犬たちを擬人化するため人間の演技を撮影したフィルムをトレースするロトスコープ技法を採用。犬の生態を動物学者の小原秀雄にレクチャーしてもらったり、ミュージカルシーンのために日劇の演出家・日高仁を起用するなど、きわめて手間のかかった作品だった。こうした試みに手間がかかり2クールで終了。放送終了から2か月後に旧虫プロダクションが倒産した。

ワンサ

 

1974年 バルボラ

 自堕落なフーテン女だが、気に入られた芸術家は名声を得、見捨てられると落ちぶれるという、悪魔かミューズかというとんでもな存在だった。耽美的なカットや退廃的な芸術論が語られる。断片的に見ることになったこの作品は、退廃的な雰囲気がずしんと心に澱のように溜まった。

バルボラ

 

1976年 ユニコ

 大学生になり、テレビのない時代に突入。この時代に放送されたアニメはほとんど見ることがなくなった。漫画は喫茶店で定期的に読んだもののサンリオの「リリカ」が置かれた喫茶店はお目にかかったことがなく、「ユニコ」に出会う機会はなかったはずだが、不思議と不定期に、どこかに載っているのを、なんとなく見ることができた。

ユニコ

 

1979年 ドン・ドラキュラ

 久しぶりに手塚さんらしい絵とドタバタ劇に喜んだ。手塚さん自身が楽しんで描いているようだった。山男になってしまい、ちゃんと見る機会はなかった。

ドン・ドラキュラ伯爵

チョコラ

 

1981年 七色インコ

 表の姿は役者だが、真の姿は泥棒であった。変装と声音がうまく、誰もを唸らせる演技力がありながら代役役者をしているのは、その技術で盗みを働くためであった。あまり見る機会がなかったせいか、そんな設定がなんとなく気に入らなかったから、積極的にみなくなってしまった。

七色インコ

 インコ以外にはただのボロ切れに見えるママーが、インコの前に幻覚として現れインコの本音を吐き出すという展開は面白かった。

 

1982年 プライム・ローズ

 大学7年生になり白黒ながらテレビを持つ生活をし始めた頃、露出度全開の女戦士として戦う、おてんばで、跳ね返りな典型的な手塚流美少女が現れた。ジャンプ、マガジン、サンデーはよく読んだけれど、なぜかチャンピオンは縁が薄かった。だから漫画での手塚作品はブラックジャックを含めプライムローズまで読む機会がなかった。24時間テレビでうっかり目にすることができた程度だった。

エミヤ

 

1989年 ルードウィヒ・B

 社会人になっていたがまだ若手で、テレビを見たり漫画を読む余裕がなかった頃、手塚さんが最後に着手した未完の作品は、ベートーベンの生涯だった。これは「ブッダ」に続く伝記漫画でもある。手塚さんは「ベートーヴェンは自分も好きな音楽家であり、自分と似ているところが多い」と語ったらしい。

ルードウィヒ

 

怪(快)キャラクター

 ヒョウタンツギを初めとする「キャラクター」の概念を超越した落書きのようなキャラクターたち。


1950年 漫画大学(シーツの柄)で初登場

 手塚さんの妹の落書きから誕生した。キノコの一種で常にガスを噴出している。真面目な話の途中ですら登場した。マンネリを感じさせないようにするための手法だったらしい。

ヒョウタンツギ


1951年 新世界ルルー (ショオ伯爵の召し使い)初登場

 「オムカエデゴンス」という名前だと思っていたら、スパイダーという名前があった。これも妹の影響を受けているようだ。ヒョウタンツギ同様シリアスなシーンにも意味なく登場して、決め台詞を吐く。

スパイダー 


1948年 シャリ河の秘密基地(月世界人)に初登場

 ママーの誕生は全手塚キャラクター中生ちゃんに次いで古い。(治が小学3年生の時)原型は食品か何かに付いていたラベルのデザインで、最初はハート型の体型だった。のちにどんどん種類が増えて行き、手塚兄弟の間では一時ママー族ばかりのマンガを描くことが流行ったこともある。このママーたちは、ずっと後年の「七色いんこ」で、ホンネの名で大活躍をする。

ママー


1959年 0マンに初登場

 体が蝶のサナギのような姿をしており、たいていはコマの端にぶら下がった姿で現れる。登場人物が笑うのと同時に「ハハハハハハハ」などと大笑いしている。

ブタナギ


1956年 鉄腕アトム/アトラスに初登場

 ヒョウタンツギの弟分。手塚治虫の妹美奈子が創作した。治、浩、美奈子の手塚兄弟は、宝塚の少年少女時代によく3人でノートに絵を描いていた。後年手塚マンガに登場するこのようなキャラクターたちは、そんな兄弟のマンガ遊びの中から生まれた。

ブクツギギュ

 

1989年2月9日 手塚治虫氏没す

 1988年3月15日胃癌で倒れながらも、上海でのアニメーションフェスティバルに出席。帰国と同時に体調が悪化。ベッドでも医師の制止を振り切って漫画の連載を続けた。1989年1月21日以降昏睡状態に陥るが、意識が回復すると「鉛筆をくれ」と言ったという。1989年2月9日午前10時50分、半蔵門病院の病室にて死去。享年60歳だった。最後の言葉は「頼むから、仕事をさせてくれ」だった。「グリンゴ」「ルードウィヒ・B」「ネオ・ファウスト」が未完となる。

手塚治虫


 手塚さんが亡くなったことを知ったのは社会人5年目だった。大切なものを失ったような喪失感に襲われた。まだ読んだことがない彼の作品を読みたくて、本屋に出かけ、手にしたのは「魔神ガロン」だった。彼のことを何か語りたかった。彼は身近な人で色々知っている気がしていた。でも語れるほどのなにも知らなかった。もっと彼の作品を読みたいと思った。そう思って三十数年が過ぎた。


 手塚さんの作品は絵が魅力的なのはもちろんだがストーリーが絶妙だ。勧善懲悪が主流だった頃から、悪者だと思っていたやつが聖人だったり、いい人だったはずなのに悪い人だったり、敵だったものが味方になったり、奥が深い。天使と悪魔の二面性や、異民族間、異文化間の対立や抗争が描かれ、人間の本質を突き止めようとしているようだ。


 模写して彼の絵のラインの絶妙さを実感する。独特の丸みを持ったフォルム。あっさり省略したところと、しっかり描きこんだところ。目の描き方、指の描き方に色気が漂う。一目で手塚さんだとわかる。風景描写も独特な雰囲気がある。今回たくさん模写して振り返ると、何よりも、滲み出るエロティシズムに惹かれたことに思い当たる。


 彼の作品は、物心ついた頃すでに周りに溢れていて、年齢とともに新しい物語を次から次へと見せてくれた。時代が絡み合い、出来事が結合して記憶に刻み込まれている。日本の漫画文化の源流に手塚さんがいる。日本にとどまらず世界中の多くの人に彼の想いが伝わったにちがいない。あらためてご冥福をお祈りする。ありがとう手塚さん 合掌。


 

追記


 2022年秋、ラドンの絵を描いたことをきっかけに、今まで出会ったゴジラ映画の総浚いを始めた。その中で出会った怪獣映画の総浚いをして、次に今まで出会った漫画の総浚いを始めた。その中で手塚さんの漫画を総浚いしたのがこれだ。実際は色々模写したかったことが始まりだった。一つ模写すると次々に、今度は何を描こうかと思いを馳せ、ああこんなのがあった、あんなのがあったと描き続け、その時に、かつてそれを見た時のことが思い出されるということになった。気がつくと200枚以上の模写をしていた。


 昨年2021年秋、今まで読んだ本の総浚いをしている。秋というのはそういう時なのだろう。その中で、いつか漫画について振り返りたいと思っていたことがこういう形で実現したことになる。


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2 Comments


napple
napple
Feb 06, 2023

2023/2/5

 「漫勉neo(15)手塚治虫」に当時のアシスタント3人が登場した。「村人が踊るコマをみて、締め切り間近に複雑な絵は大変だからアシスタントに回ってくるだろうと話していたら、全部手塚さんが描いちゃった。」みたいな話があった。「もしかしたらアシスタントたちの話を聞いて意地でも自分で書いたのかもしれない」という。その話から背景はアシスタントが描いていたことを再認識。手塚さんのラインと思っていた絵が、もしかしたらアシスタントの絵だった可能性がある。  「火の鳥・異形編」の冒頭、雷が森に落ち林間を逃げ惑う二人の人影があるカラーシーンは、霧が漂う大樹海の精緻な絵の上をぐるぐると渦を巻き落ちてくる雷を俯瞰で捉えていた。でもそれは手塚さんから雷のラインと二人の逃げる人の指示からアシスタントが書き上げた力作だった。長い間あれは手塚さんが描いたものだと思っていた。

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napple
napple
Feb 05, 2023

2023/2/4

 浦沢直樹の漫勉neo(15)手塚治虫を見る。

  • アシスタントの証言と当時の貴重な資料から、そのペン先に迫る!

  • 魅力的な線の秘密は、ペンの持ち方とあの雑誌?

  • たった11色の絵の具で描いたカラー原稿

  • 背景指定、色見本など量産のための技術を大公開

  • 大ヒット漫画「ブラック・ジャック」が生まれた秘密

  • 名作「火の鳥」にこめたもの

  • 「漫画の神様」の素顔とは?浦沢直樹が語る手塚漫画の魅力!

  • ブラックジャック、三つ目が通る、MW、ブッダ、UNICO、火の鳥を同時に描いていた。

  • フランスの漫画家メビウスの描く雲を参考にしていた。

  • 「アイデアだけはバーゲンセールしてもいいくらいあるんだ」という手塚さん。

1989年60歳で亡くなった手塚治虫さん。漫勉で亡くなった作家を取り上げるのは初めてだ。

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