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執筆者の写真napple

ウイリアム・スタウト

更新日:5月24日

2023/2/23


 ウイリアム・スタウトに出会ったのがいつかはっきりとした記憶がない。おそらく学生時代頻繁に訪れた阪急ファイブ5階にあった駸々堂書店で画集を見たのだと思う。子供時代目にすることができた恐竜の絵は画一的だったけれど、恐竜が無条件に好きだったから、その映像を受け入れていた。ある日、今までに見たことがない素晴らしい恐竜の絵が現れた。ウイリアム・スタウトの恐竜だった。これこそ求めていた恐竜だと思った。その構図から最初ミュシャが描いているのかと思ったが、もちろんミュシャはこんな絵は描かない。大好きなミュシャ的な構図も相まって彼の絵が大好きになった。彼は独特な恐竜を描く、それは恐竜らしいだけでなく、どこかチャーミングだ。恐竜単独の絵もいいが、よりデザイン的で、ミュシャのアール・ヌーボーのポスターの美人画を恐竜に置き換えたような構図も素敵だ。とにかく彼の絵は何もかもが好みだった。彼のような絵を書きたいと長年思い続けている。幾度も恐竜の絵を描く時に挑戦し挫折してきた。

 

 彼の絵は、その独特のハッチングがなかなか真似できない。適当に安易なハッチングをしてしまうと、全然彼の絵にならない。それは彼のハッチングの不規則性というか、斜線の構図が予想を超える方向に引かれ、濃い部分はハッチングが読み取れない複雑なものであることと。なにより模写をはじめても精密に描かれたハッチングを真似る根気が続かなかいのだ。しかし、なんとか彼のハッチングを真似てみたいと思い、できるだけ彼らしい構図でハッチングがはっきりしているものを選び模写をした。

 最近絵を描く時は一気に描いてしまうのだが、この絵は、休み休み数日かけて描くことになった。背景を描く気力が尽きてしまった。とにかく恐竜を描くことができたのでよしとしよう。彼の絵は、まず線の太さに強弱がありリズムがある。そこに縦横無尽のハッチングが乗って面を作る。そのハッチングはワンパターンではなく、さまざまなパターンがある。曲線が多用され、細かいハッチと広いハッチが組み合わさっている。クロスしていないところは、一本一本重ならないように丁寧に引かれている。ハッチで鱗状の皮膚を表現するのかと思いきや、そうでもなく、もしかすると気ままに感性でハッチングを施しているのではないかと思ういい加減さがある。ところがそこに不思議な味、チャーミングさと感じたものがあらわれる。彼のハッチングの独自性の一端を垣間見る。

  Procrateを使って着色をするのは始めて。グラデーションとマスクを使用。

 

 彼はスターウォーズも描いている。静岡市美術館で開催されたスター・ウォーズ展で彼の絵を見つけた時は嬉しかった。初めて彼の肉筆画だ。ストームトルーパーがドラゴンの背にまたがっている。この絵はスタウト独特のハッチングが見られない、そこであまり気負わずにサクッと模写をしてみた。Procrateを使って着色をする格好のテストになった。


 

 ラルフ・バグシ監督の「指輪物語」が公開された頃、指輪物語の絵を見たくて買ったアニメージュに気になる絵が載っていた。「指輪物語」よりまえに公開されたラルフ・バグシ監督の映画「WIZARDS」なのだが、今回調べてみてウイリアム・スタウトの絵であったことがわかった。ようやく、霧が晴れたような気分だ。こちらもラフに模写した。


 

 今まで幾度も描こうとするのだが描けなかったスタウトをようやく模写することができた。Sketchesを使った今までの描き方だと、一歩を踏み出せなかった気がする。Procrateでとにかく数百枚の「顔」を着色や後処理を考えずに描いたことで、ペンコントロールの勘所が手に宿った気がする。よくわからなかったProcrateの着色方法だったが、意を決してチュートリアルを学び直した。線を引いたり着色することはどのソフトも大差ないのだが、マスクをかけたり、グラデーションをつける方法が違っていて、使い慣れたソフトにこだわっていると、ちんぷんかんぷんなのである。Sketchesで描いてた時のやり方を思い切って変えたことで楽になった。もちろんSketchesで身につけた技術が全て無駄になったわけでもない。


 コンピューターによるお絵描きの良さは、塗りつぶしの手軽さにある。閉じた線の内側を一瞬で塗りつぶしてくれる。塗りつぶした色を変えるのも一瞬でできる。しかしこの機能を利用するためには、塗りつぶす領域が閉じている必要があって、何処か線が途切れていると、画面全体が塗りつぶされる。また塗りつぶす領域に閉じた空間があるとそこは塗りつぶされない。これはどのソフトも大筋は同じだ。ProcrateもSketchesも同様である。


 今までSketchesを使っていたのはとっつきがよく分かりやすかったからだ。ではそのSketchesでどんなふうに描いていたかを振り返ると、塗り潰しやすいように、輪郭を閉じるように描き、閉じた内側に仕切りになる線を描かないように描き始める。塗りつぶす時の手間を思うとそうせざる得なかった。しかしこれは絵を描くという意味では気持ちよくない。引きたい線を引きたい時に引けないからだ。結果的に線に強弱をつけて勢いを乗せて描くこともままならなかったのである。


 今回はProcrate5.3.2で描いた。ProcrateはSketchesより線の強弱がつけやすく、細くしたい時に細く、太くしたい時に太く線を引くことができる。それは筆や、インクペンで線を引く時の操作感に近く、線を引いていて気持ちがいい。そこで塗り潰しを意識せずに書きたくなる。それは輪郭を閉じることに気を奪われないことであり、線が掠れても途切れてもいい。むしろそのおかげで味のある線を描くことができる。着色はレイヤーを分けて塗り潰しのために線を引き直す。この時忠実に輪郭をなぞれなくても調整ができるから気楽に線が引ける。Sketchesでもこの方法は取れたのだが、線の強弱がつけにくかったため、最初から塗りつぶしを意識した書き方をするようになってしまったのだ。


 最初Procrateのマスクの使い方や、グラディエーションのやり方がわからないうちは、思うように絵を仕上げられないので使う気になれなかった。これを克服すると、その途端にどんどん思うように描けるようになった。そうなることは初めからわかっていた。サクサク描けるツールを見つけてしまうと、機能が不十分でもそればっか使うようになってしまい、その方法に慣れすぎて、別の方法を取り入れるのに時間がかかってしまうのであった。


 

 スタウトを意識しながら描いた恐竜の絵

 2015年3月から4月にかけてiMac・ArtRage Studio3.5.12・Intuos pen smallで描いた。全くスタウト的ではないが、イメージしていたのはスタウトだった。



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