2023/3/23
「思い出すことといったら
些細なことばかり
でもね、
その些細なことがとてもいとおしい」
折金紀男著「ラパンのひるね」より
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生頼範善「復活の日」Procreate5.3.4で描く
友人の作陶展に出かけた。
そこで共同出展された画伯の絵本を求めると、
折金先生とこれから作るとのこと、
頼んだ本がこれから製本されるという。
とても特別なことのような気がする。
帰宅して、ふっと折金先生の本を読み返した。
ふわっと暖かい気持ちに包まれた、やっぱりいいな。
意味などなさそうな言葉遊びの中に
深淵な意味が隠されているよう。
最初に飛び込んできたのが先の言葉。
思い出の無い人はいないだろう。
歳をとり思い出こそ宝物であることに気ずく。
若い頃、生きた証を残したいと切望したことを思い出す。
ところが、今はそうでもない。
どうしてだろう。
沢山思い出が溜まったからかな。
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歳をとるほどに自分の人生を振り返り
足跡をなぞって楽しむようになる。
思い出したく無いことはちゃんと割愛して。
思い出したいことだけ思い出して。
時に脚色して。
「思い出すことといったら
些細なことばかり
でもね、
その些細なことがとてもいとおしい」
そう、とても愛おしい。
2023年5月18日
ふっと些細なことを思い出すきっかけは、鍵があるらしい。たとえばブランコ。傍目には楽しそうなブランコに長い間乗っていることができない。気持ち悪くなってしまう。ふらふらになり手に染み込んだ鉄の匂いが蘇る。歯科医で椅子を倒され頭を低くされると気持ち悪くなる。その感覚はブランコで酔った時に似ている。そして決まって鉄の匂いがする。
心の奥深くに沈んでいるけれど、特別な鍵に触れると湧き上がってくる。その鍵は言葉だったり匂いだったり音だったり、些細で身近なものだ。
鉄の匂いや目眩がするとブランコを思い出す。電話の呼び出し音がすると、呼び出し音が聞こえる間どうしようもないくらいドキドキする時間を思い出す。何も知らない自分を自覚する時、僕のことを何でも知っていた君を思い出す。
2023年5月25日
思い出すのは良い思い出ばかりだろうか。いいや、映画「ドライブマイカー」を見て気がついた。思い出すのはいいことばかりじゃない。実は辛かったことこそしみじみと思い出す。どうしてあんなことが起きたのだろうと。そうしたことを乗り越えた自分を褒めてもらいたいのかもしれない。とにかく、思い出すことは辛かったことだったりする。そしてできる限り脚色しないように思い出そうとする。
あたかもそれを些細なことだったように。
2023年5月29日
物語には出会うべき時に出会うべくして出会うような気がする。どういうことかと言うと、小説や映画の中に、その時必要としている言葉が聞こえると言うことだ。でも、これは不思議ではない。なぜなら、小説や映画の中に無数に現れる言葉の中から、最もその時に必要としている言葉を見つけただけだから。だとしても、その言葉は何よりも嬉しい。やっぱり出会うべくして出会うのだ。
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